「地球環境を考慮しない経営」を批判するアンチアドバゲーム「マクドナルドビデオゲーム」を作られてしまったマクドナルド社が、またもシリアスゲームをネタに、社会活動家による批判行動を受けました。
このハプニングは、6月5-6日に開催されたUK Serious Games Eventで起こりました。発表者として、マクドナルドの子会社「マクドナルドインタラクティブ」のメンバーが登場し、次のような発表をしました。
「マクドナルドの子会社である我々は、米陸軍のアメリカズアーミーにインスパイアされて、McMarketplaceという幹部社員教育のための経営シミュレーションを開発した。利用した社員からは好評価を得たので、気候シミュレーションのモジュールを開発して追加した。すると、どんなやり方でも50年以内に地球環境が破壊されて、経営が破綻する。このシミュレーションで経営を維持するには、最初の5年以内にガス排出量を70%削減し、森林破壊を止めなければならなかった。おかしいので調査してみたところ、どうやらこれは本当らしいということがわかった。直ちに経営方針を改めて、環境破壊を止めなければならないと経営陣に訴えたところ、聞き入れてもらえなかった。このまま地球が破壊されていくのを見過ごすことはできないので、我々はマクドナルドを離れ、この真実を世に広める活動を行なうことに決めた。」(以上要旨。全文はこちらで読めます)
会場では議論の的となり、かなりの聴衆がこの声明を信じたそうですが、ゲームブログ等で真偽のほどを確かめる動きがとられ、この発表が全て、社会活動家達による壮大なインチキであることが突き止められました。
イタリアの反マクドナルドの活動家が、マスメディアを利用した社会活動を得意とするYesmenの手ほどきを受け、ホンモノっぽい会社Webサイトや、シミュレーションのスクリーンショットまで作りこんだプレゼン資料を制作して、このイベントで計画実行に及んだということです。
イベントの主催者側はこのことを全く知らされていなかったとのことで、この件については一切ノーコメントで、イベントのウェブサイトも表紙のみにしてしまっています。主催者にはなかなか気の毒な状況ですが、この計画の首謀者が応えたインタビューの中で、主催者側が「マクドナルドビデオゲーム」をマクドナルドが作ったものだと勝手に勘違いして、(あきらかに反マクドナルドの)このゲームの開発者に招待のメールを送ったことからこのアイデアを思いついたのであって、主催者は自らこの災難を招いたのだ、とコメントしています。
このハプニングは、シリアスゲームやゲームブログのコミュニティで話題となって、さまざまな議論を呼びました。事の顛末はWaterCoolerGamesに一番詳しくまとめられています。
MMO研究関連書
Massive Multiplayer Online Game (MMOG・大規模多人数参加型オンラインゲーム) は、シリアスゲーム分野でも関心の高いテーマの一つです。MMO世界の社会性や文化の形成過程には、教育などのエンターテインメント以外の分野への応用の可能性も高く、各分野で研究が進められています。その中から、最近書籍としてリリースされたものをいくつかご紹介します。
Play Between Worlds: Exploring Online Game Culture
T. L. Taylor 著
コペンハーゲン工科大学の准教授である著者が、MMO初期の大ヒット作「エバークエスト」世界をエスノグラフィの手法で研究し、プレイヤーたちの活動や、形成される文化を詳細に記述しています。
Synthetic Worlds: The Business And Culture Of Online Games
Edward Castronova 著
インディアナ大学准教授で、MMO世界経済研究の第一人者である著者による、これまでのMMO世界の経済学的研究の知見をまとめた研究書。巨額の開発費が投じられ、何百万ものプレイヤーが参加するMMO世界で形成される文化や、一つのゲームだけで、リアル世界の一つの国の経済活動を超える規模の経済活動が行なわれている状況の背景や活動のメカニズムを分析的に論じています。
Massively Multiplayer Online Role-Playing Games: The People, the Addiction and the Playing Experience
Richard V. Kelly 著
DEC社でバーチャル世界のシステム開発に取り組んできた著者が、3年間で100人以上のプレイヤーへのインタビューをもとに、人々がそれらのゲームに魅了され、ハマっていく要素を探っています。エバークエストでの研究成果をメインに、数ある主なMMOタイトルについても特徴や概要について言及しています。
韓国のオンラインゲームビジネス研究―無限の可能性を持つサイバービジネス成功の条件
魏 晶玄 著
現時点では、日本語では上記のようなアプローチで書かれた研究書はまだ出ていませんが、関連書としては、韓国のオンラインゲーム研究の第一人者、魏晶玄氏による、オンラインゲームの産業分析を行なった研究書がリリースされています。欧米とは異なる文脈で発達しているアジアのオンラインゲームコミュニティについて、その特性や国ごとのユーザーの違いなどについて触れられています。
(参考) このトピックの関連論文:
藤本徹 (2005). 多人数参加型オンラインゲームの教育利用に向けた研究の方向性.
http://anotherway.jp/seriousgamesjapan/archives/files/MMOGResearchFrameworks-Fujimoto.pdf
マクドナルド&エクサゲーミング
ここ数年巻き起こっているファーストフード批判への対策として、米マクドナルドはサラダメニュー充実を図るなどのヘルシー路線を打ち出しています。そのPRの一環として、ゲームコンソールを使ったフィットネスプログラムとして話題を呼んだ、「Yourself! Fitness」とタイアップして、Yourself! FitnessのデモDVD(ヨガ、カーディオなど4種類)がミールセットのおまけについてくるキャンペーンを展開しています。
このYourself! Fitnessは、バーチャルインストラクターによる指導で、自宅にいながら本格的なトレーニングができるプログラムで、マクドナルドのPRではその指導部分のビデオを編集して各15分にまとめたDVDしたものが提供されています。
Yourself! Fitness ウェブサイト
http://www.yourselffitness.com/
エクサゲーミングジム:XRtainment Zone
シリアスゲームニュースサイトSeriousgamessource.comで、EyeToyやDDRなどの身体を動かして操作するゲーム(エクサゲーム)を各種設置した、子どもと家族向けのジム施設「XRtainment Zone」が紹介されています。
カリフォルニア州ロスアンゼルス近郊のレッドランズに設立されたこのジムは、「エクサテインメント」という、健康増進のためのゲーム利用をコンセプトに、子ども連れの家族がゲームを楽しみながら運動できるレクリエーション施設で、近日オープンに向けて準備が進められています。下記の活動紹介ブログでは、その施設の準備に並行して、地域でプロモーションイベントを行なう様子が紹介されています。
シリアスゲームソース記事
http://seriousgamessource.com/features/feature_060206_exergaming.php
XRtainment Zoneウェブサイト
http://www.xrtainmentzone.com/index.htm
XRtainment Zone活動紹介ブログ
http://xrtainmentzone.blogspot.com/
不動産売買のミニゲーム
「Mansion Impossible」は、不動産売買をテーマにしたミニゲームです。
Mansion Impossible
http://www.freeworldgroup.com/games2/gameindex/mansion.htm
ゲームはシンプルで、建てられた不動産の価格が上昇する間にクリックして購入し、下がりだす前にクリックして売却して利益をあげ、マップ内にある豪邸を購入すればゴールです。
このゲームには複雑な学習の要素はありませんし、ここで伝えられているコンセプトが適切かどうかも議論があるところですが、コンセプトを伝えるためのミニゲームの使い方、デザインの仕方の一つの例として捉えると、参考になると思います。
なお、このゲームはコピーされて無料オンラインゲームウェブサイトに出回っています。この手のオンラインミニゲームは、コピーできるものはどんどんコピーされて広がっていきます。このゲームと同様に、商品プロモーションなどのために企業が制作したミニゲームの類は、提供者の管理の手を離れて、ネット上で流通していきます。この点は、コンテンツの流通においてポジティブな面もあり、一考するに価する点だと言えるでしょう。
シリアスゲーム関連イベント
今年開催されるシリアスゲーム関連イベントの主なものをご紹介します。
Games, Learning & Society (GLS) Conference
ゲームと学習、社会に関するカンファレンス、Games, Learning & Society (GLS) Conferenceは、6月15日、16日にウィスコンシン州マディソンで開催されます。
このカンファレンスは、ゲームに関する学術研究、特にMMOG系の研究発表が中心になっているのが特徴です。参加申込、プログラム詳細はカンファレンスウェブサイトをご覧ください。
http://www.glsconference.org/2006/default.htm
Games for Change 2006 Annual Conference
非営利活動分野のシリアスゲームグループ「Games for Change」の年次カンファレンスは、2006年6月27日、28日に ニューヨークシティのParsons The New School for Designにて開催されます。
現在、参加申込を受付中です。詳細はGames for Changeウェブサイトのアナウンスをご覧ください。
http://www.gamesforchange.org/conference/2006/index.htm
Games for Health 2006 Annual Conference
医療健康分野のシリアスゲームグループ「Games for Health」の年次カンファレンスは、2006年9月28日、29日にUniversity of Maryland School of Medicineにて開催されます。
現在、発表者を募集しています。応募〆切は6月19日です。詳細はGames for Healthウェブサイトのアナウンスをご覧ください。
http://www.gamesforhealth.org/archives/000152.html
Serious Games Summit D.C. 2006 (SGS D.C.)
今年のシリアスゲームサミットD.C.は、10月30日、31日、昨年と同じバージニア州アーリントンのCrystal Gateway Marriottにて開催されます。
現在、発表者を募集しています。〆切は6月5日です。詳しくはシリアスゲームサミットのウェブサイトをご覧ください。
http://www.seriousgamessummit.com/
ディズニーの起業教育ゲーム
ディズニーのWebsite、ディズニーオンラインで、子ども向けの起業教育ゲームが提供されています。
ホットショットビジネス(ディズニーオンライン)
http://www.disney.go.com/hotshot/hsb.html
このゲームは、起業家精神の振興と教育を目的に活動するカウフマン財団がパートナーとなって開発されています。
コミックショップ、キャンディ屋、ペットスパなどのビジネスのうち一つを選択して開業し、資金調達の方法、販売する商品の種類や価格、広告、研究開発などの経営に関わるさまざまな意思決定を行ないながらビジネスを成長させるという内容のゲームです。場面ごとにインストラクションが入っていて、単に操作方法の説明だけでなく、判断の基準や発生イベントがビジネスに与える影響などの解説が入っており、プレイしながらビジネスの流れを体験し、学習できるようにデザインされています。
なお、ゲームは無料でプレイでき、登録等も不要です。
オーストリアのゲーム研究修士プログラム
オーストリアのドナウ大学にゲーム研究の修士プログラムが開設され、2006年度の入学者を募集しています。
Danau University Krems Computer Game Studies
http://www.donau-uni.ac.at/de/studium/department/imb/plus/06185/index.php
この修士プログラムの特徴は、各講座が短期集中のワークショップ形式で、それぞれ3〜5日程度で完結することと、ドイツ語圏のオーストリアですが、授業は全て英語で行なわれることです。この形態を取ることによって、より広範囲を対象にした学生募集を可能にすると同時に、他の言語圏からの講師招聘を柔軟に行なえるようになっています。各講座の講師を見ると、半数以上はアメリカやデンマーク等の他言語圏から招かれています。また、eスポーツやゲームベースドラーニングが講座ラインナップに含まれているところは、最近のゲーム研究へのニーズを踏まえてカリキュラムをデザインしている様子がうかがえます。
開講講座一覧:
必修講座:
・ Games and Society (ゲームと社会)
・ Critical Game Studies (ゲーム批評研究)
・ Media Studies (メディア研究)
・ Computer Game Technology I(コンピュータゲームテクノロジーI)
・ Computer Game Technology II (コンピュータゲームテクノロジーII)
・ Human Computer Interaction and Usability (ヒューマンコンピュータインタラクションとユーザビリティ)
・ Business of Gaming I (ゲームビジネス I)
・ Business of Gaming II (ゲームビジネス II)
・ Game Production(ゲーム制作)
選択講座:
・ Conceptual Game Design and Interactive Storytelling (ゲームコンセプトデザインとインタラクティブストーリーテリング)
・ Game Based Learning (ゲームベースドラーニング)
・ eSport Business Development (eスポーツビジネス開発)
・ Game Strategy and Virtual High Performance Teams (ゲームストラテジーとハイパフォーマンスなバーチャルチーム)
なお、詳しいプログラム紹介、講座概要は、上記の同プログラムのウェブサイト(英語)に掲載されています。
シリアスゲーム論文
財団法人デジタルコンテンツ協会が実施した「デジタルコンテンツの次世代基盤技術に関する調査研究」の研究報告書に「シリアスゲームと次世代コンテンツ」と題した論文を寄稿しました。シリアスゲームの定義、欧米で発展した経緯、開発事例、利用される技術、事業として期待される効果、などについて論じています。
藤本徹(2006) 「シリアスゲームと次世代コンテンツ」、財団法人デジタルコンテンツ協会編「デジタルコンテンツの次世代基盤技術に関する調査研究」第四章(PDFファイル)
シリアスゲームと日本のトイレ
Gamasutraの姉妹サイト、Serious Games Sourceに、ゴンザロ・フラスカ氏による「Serious Games And The Japanese Toilet: Extending ‘Serious Game’ Designs To Deliver More (シリアスゲームと日本のトイレ: より多くのことを伝えるためのシリアスゲームデザインの拡張)」というコラムが掲載されました。
このコラムでは、「日本人はデザインを完成させる技術に定評があるが、日本のトイレは水を流すとタンクの上についた小さな蛇口から水が流れて手が洗えるようになっている。洗練された、エコロジカルで、本来のデザインにほんの少しだけ変更を加えることで、付加価値を生みだす素晴らしいデザインの例だ。この考え方はシリアスゲームのデザインにも必要だ。」という導入から、シリアスゲームをデザインする際の考え方として重要な点を述べています。
このコラムの主なメッセージは、「トレーニングのためのシリアスゲームをデザインするにしても、シリアスゲームというスタイルをとった時点で、文化的、PR的な影響を持つものになるので、トレーニングを受ける人だけでなく、その家族や友達などの周囲の人たちもプレイすることを想定して、デザインの際にはPR的な要素のデザインにも気を配る必要がある。」というもので、実現のための方法として、「おまけ的なミニゲームを活用する」「社会性を考慮する」「(企業内トレーニングのシリアスゲームをデザインする際は)登場人物よりも、実践する環境のデザインに焦点を当てる」といったアドバイスが示されています。
Serious Games And The Japanese Toilet: Extending ‘Serious Game’ Designs To Deliver More(Serious Games Source)
http://seriousgamessource.com/features/feature_050206_japanese_toilet.php