シリアスゲームを斬る

 米国のゲーム情報サイト1up.comに、“You can’t be serious!: five famous game designers rehabilitate the world’s most most boring games”(冗談でしょ!五人の有名ゲームデザイナーが世界で最も退屈なゲームを修復)という記事が掲載されましたのでご紹介します。Virtual U、Virtual Leaderなどの5つのシリアスゲームを、エンターテイメントゲームとして作り変えるとしたらどんなデザインにするか、五人の実績あるゲームデザイナーたちが提案するという内容です。
 ゲームのデザイン上の問題点を指摘したり、ゲームの質を上げるためのアイデアを出すというよりは、それらのゲームをシリアスでなくするためのアイデアを適当に出すにとどまっています。本家のシリアスゲームMLでは、「ジョークとしては面白いけど、意味はない」「シリアスゲームバッシングしたい人がいるのでは」「オレらもヘイローとかGTAをシリアスゲームとしてデザインしたらどうなるかやってみたら面白いんじゃない?」といった議論がなされていました。
北米ではシリアスゲームも、一般ゲームサイトで取り上げられてネタにされるだけの認知を得てきたということでしょう。

お知らせ

 ML他で以前に告知しているものばかりで、ややネタが古くなってしまった感がありますが、シリアスゲーム関連のお知らせです。

1.医療健康系ゲーム情報提供のお願い
「ゲームズ・フォー・ヘルス(Games for Health)」というシリアスゲームイニシアチブの分科会と連携して、健康・医療・福祉関連のシリアスゲームに関する調査を始めました。
健康・医療・福祉関連のシリアスゲームに関する現時点での動向をまとめて、ゲーム業界の当分野への参入や活動活性化に資することを目的としています。健康・医療・福祉分野でのゲーム活用事例、研究事例に関する情報を募集しています。
収集した情報は、並行してシリアスゲームジャパンWebサイトで公開する予定です。「こんなニュースを見た」「あまり知られてないけどこういうゲームがある」という関連情報をご存知の方はぜひご連絡くださいますようお願いいたします。特に、ゲームの医療や健康への効果を研究した事例をさがしています。論文や記事を見かけた方はぜひご一報ください。

海外での「シリアスマンガ」展開

シリアスゲームのMLへの投稿で、「翻訳アニメマンガ出版社のViz mediaと世界銀行が提携して、教育マンガを制作」というニュースが流れていました。「1 WORLD MANGA」シリーズというのを立ち上げて、貧困、エイズ、環境などの諸問題をテーマにした教育マンガを制作し、販売して利益を寄付することに加え、世界300ヶ所の図書館に無料配布する計画だそうです。
「世界銀行とVIZメディアは、若い読者たちに人類が直面するさまざまな重要課題について学んで関心を持ってもらうというビジョンを共有する。そして非常に人気の高いマンガのスタイルは、世界の開発諸問題についての教育を若者たちに行なっていく上で、強力な伝達手段となると考えている(上記リンクのプレスリリースより)」
アニメやマンガを教育・啓蒙に利用しようという発想は、日本では相当古くからあって、図書館に行けば歴史マンガ、企業や公共機関の広報パンフ等でもマンガは手法としてよく使われています。多くの一般のマンガも、教育的な要素を持ちながらも商業ベースで成功していることも、日本ではごく普通にマンガが人々の教養形成の重要な要素として文化に根付いていることを示しています。
マンガが日本社会にどう根付いていったかを見ていくことで、日本でのシリアスゲームの展開に関するヒントが多く含まれているようです。

企業のシリアスゲーム投資

「マイクロソフトがシリアスゲームに資金提供」という情報を
山口浩さんのブログからトラックバックで送っていただきました。山口さんのブログでは、当サイトがあまりカバーしていないMMOG関連の話や、私がサボっている英語での情報発信などされています。
アメリカのシリアスゲーム系プロジェクトへは、紹介記事にあるマイクロソフトや、リープフロッグ社(Education Arcadeプロジェクトのスポンサー)など、企業から直接提供される資金の流れもあります。金額の多寡はあるかと思いますが、日本でもゲーム会社やITメーカー系の財団がいくつかあって、研究助成が出されていたり、企業の寄附講座として大学へ資金提供される例がありますので、その流れで今後シリアスゲームプロジェクトへの資金提供も進んでいくと期待しています。
#まだどこもやっていない今のうちは不安もありますが、誰もやっていないところにこそ旨味があるということで、ぜひ積極的にご検討いただければと思います>ご関心をお持ちの企業の皆さま

シリアスゲームワークショップ:コンピュータゲームで英語を学ぶ

「シリアスゲームワークショップ:コンピュータゲームで英語を学ぶ」参加のご案内
ワークショップのねらい:
このワークショップは、英語を学びたくていろいろがんばっているのになかなか身につかない人にゲームを利用した新たな学習方法を提供することを一番のねらいとしています。英語学習がうまくいかない人の学習の障壁はいろいろと考えられますが、一番の問題は、自分に合った学習システムが構築できてないことです。ここで言う学習システムとは、学習の習慣付け、学習リソースへのアクセス、学習へのフィードバック、練習機会確保などを指します。高いお金を払って英会話学校に行って効果があるのは、教え方がうまいからではなくて、自分の学習システムを作りやすい状況を提供してくれるからです。学習システムさえ何とかすれば、高いお金を払う必要も、学校に行く必要もありません。
ゲームは学習のモチベーションを高めてくれる有効な学習ツールです。学習の苦労を分散させたり、興味の高さややる気でカバーしたりするのにゲームはとても有効です。シリアスゲームの関心はそのゲームのツールとしての長所にあります。そして、ゲームは英語を学ぶのにも効果がありますが、新しい言語を学ぶのは当然苦労が伴います。ただ空き時間に英語のゲームをやるというのは続かなくて、やはり他の学習方法と同じく、自分の学習システムの中での位置づけを明確にしながら利用する必要があります。ゲームにDVDなどのメディアを組み合わせて利用することで、高い英会話学校に通う10分の一の予算で、より高い学習効率のよい学習システムを組むことも可能です。
今回のワークショップでは、英語学習にゲームを徹底活用する方法を一緒に考えながら開発していきます。ワークショップ終了時までに、参加者各自が自分のニーズに合った英語学習システムを整備し、実践できるようになっていることが目標です。今までいろいろな学習方法を試したけど、なかなか英語が身につけられない、学習が続かないという人にはとくにこのワークショップの効果を実感してもらえることと思います。
ファシリテーター:藤本 徹(シリアスゲームジャパン・ペンシルバニア州立大学)
活動内容:
・英語学習に関するワークシートの記入〜オンラインカウンセリング
・参加者ごとのオリジナルな学習メニュー作成
・メニューに沿った学習活動〜定期的な振り返りログ作成〜学習サポート
※学習メニュー項目例:
・マルチプレイヤーオンラインゲーム世界探索
・英語版ゲームプレイ
・好きなDVD鑑賞
・オンラインクエスト、情報探索
・学習振り返りログの作成
このような内容を基本に、ゲームの選択、学習頻度等を個別に設定して、メニューを作ります。
全てオンラインで活動します。
募集定員:5名様
参加費:無料(ゲームなど、学習リソースの購入は必要に応じて発生します)
対象者:英語を身につけたい人なら誰でも(レベルは問いません)
実施期間:6〜8週間程度(10月上旬〜11月下旬)
申し込み方法:
E-mailでsgjworkshop [atmark] anotherway.jp 宛に下記を記載の上、10月2日(日)までにお申込ください。
募集定員に達し次第締め切ります。
・名前
・職業
・現在の英語レベルとどれくらい英語ができるようになりたいか
・ゲーム歴
・お持ちのパソコンの情報(デスクトップ/ノート、OS、だいたいのCPUなどのスペック)
・その他、簡単な自己紹介とこのワークショップへ期待することなど

MMOGの教育利用に向けた研究の方向性

 多人数参加型オンラインゲーム(MMOG)を教育用途で利用するための基礎研究の枠組についてまとめた資料を公開します。
藤本徹:”多人数参加型オンラインゲームの教育利用に向けた研究の方向性”,
http://anotherway.jp/seriousgamesjapan/archives/files/MMOGResearchFrameworks-Fujimoto.pdf, (2005)

引用は自由ですが、一般的なオンライン著作物の取り扱いルールを守って利用してください。

CEDECシリアスゲームセッション記事

 CEDECでのシリアスゲームセッションは無事に終了しました。関係者の皆さま、ご協力ありがとうございました。今回の講演内容の紹介記事がIT mediaに掲載されています。
CEDEC 2005リポート: “ゲームは有害だ”と言うだけでは社会的にも停滞感が生まれてしまう (IT media Games)

CEDEC講師メールインタビュー

8月29日〜31日に開催されるCEDECの講師インタビューに答えた内容がGameWatchで掲載されました。以下、藤本回答分を掲載します。他講師のインタビューその他詳細については同サイトをご参照ください。
—–(以下、掲載サイトより抜粋)
R01 シリアスゲーム研究・開発の最新動向
R03 ゲーム業界にとってのシリアスゲームの可能性と課題
シリアスゲームジャパン コーディネーター 藤本 徹 氏
Q. 今回、講義を行なうことになった経緯を教えてください。
 今年3月のGame Developers Conferenceで行なわれたシリアスゲームサミットで、IGDA日本の新さんと東大の馬場教授にご協力いただいて、日本のシリアスゲームを取り巻く状況を紹介するセッションをやりました。その準備を進めている段階で新さんから、CEDECのIGDAアカデミックの枠でシリアスゲームのセッションをやりたいですね、と提案をいただいたのがそもそもの発端です。Skypeやメールで新さんと何度かやり取りしながら企画を練っていって、今回の講演とパネルの2本立てセッションの形となりました。
Q. 今回の講義でどのようなことを伝えたいでしょうか? 講義に対する意気込みを教えてください。
 今回のセッションの基本的なねらいは、講演の方でシリアスゲームのコンセプト、そしてシリアスゲームをデザインする上で重要な、学習とゲームの関係を整理するためのフレームワークを理解していただくこと。それからパネルの方では、日本のシリアスゲーム事例となるゲームの開発に携わられた開発者の方々とのディスカッションを通して、シリアスゲーム開発の実際の状況や課題、可能性についての理解を深めていただくことです。それによって、シリアスゲームに関心のある方や今後企画やデザインを手がけていこうと考えている方たちがさらに前進するための燃料補給となるようなセッションができればと考えています。
 欧米ではシリアスゲームはブレイクして、ここ一年ほどの間に参入者も大幅に増え、相当な盛り上がりを見せています。それは端的に言えば、ゲームには社会を変えるパワーがあると信じる人々の輪が広がり続けている現象です。教育や社会的活動に取り組む人たちにとっては、ゲームは他の手段では成し得ない成果をもたらしてくれる強力なツールであり、ゲーム産業にとっては、市場の飽和や、暴力的描写などで社会からの風当たりが強い状況を改善するための一つの方策として取り入れられてきています。日本でもそうした状況は共通しており、シリアスゲームのコンセプトをうまく取り入れていくことで、ゲーム産業、さらには社会全体が行き詰まった状況に働きかけていくことができると思います。
 欧米と日本のゲーム文化には違いがあり、ゲームをする人、しない人ともゲームに対する捉え方が異なる面があると理解しています。シリアスゲームの展開の仕方も、欧米でやっていることを日本にそのまま持ち込んだだけでは、まずうまくいきません。日本には日本のゲーム文化や社会的特性に対応した日本流のシリアスゲームが必要であり、今回のセッションは、その形成のための第一歩ですので、私も気合を入れて臨みたいと思っています。
Q. 受講者に何を学んでほしいのでしょうか?
 シリアスゲームは、「何かのためにゲームを利用する」という実用性の部分に目が行きがちですが、その部分だけを安直に理解すると、あまり楽しい感じはしてこないと思います。特に開発者の方から見れば、ゲームの文化やアート性のようなものが取り払われて、何だか日用品や道具作りをするようで、面白みを感じないように捉えられてしまうかもしれません。しかし実は、シリアスゲームの実用性の部分は、社会の中にゲームが入り込むための「トロイの木馬」であって、ゲームによってもっと本質的に教育や社会のあり方自体を変えていこう、というのがシリアスゲームの根底にあるコンセプトです。
 今のゲーム市場は、個人の限られた娯楽時間を他の娯楽産業との間で奪い合う中で市場を拡げ、その過程でゲームをする人、しない人の間の断絶を深めてきた側面があると思います。またゲームは非常に強力で魅力的な娯楽なため、個人の娯楽時間そのものを拡げてきて、もう拡げようがないところまで来て飽和状況にある、という見方ができます。
 そういう状況でふと周りを見回すと、敵だらけなんですね。娯楽時間のパイをゲームに奪われた他の産業、活字メディアも映像メディアも、アウトドア系の娯楽も、みんな分け前が減りました。ゲームに熱中するゲーマーの周辺のゲームをしない家族、友達、教師たちにしてみれば、ゲームのおかげで自分たちの優先順位が下がって面白くないわけです。PTAや教育関係などの非ゲーマーコミュニティからの過剰なまでのゲーム拒否反応には、そうした状況が背景にあると言えます。熱心なゲーマーにしてみても、社会生活のための時間は必要であり、ゲームに費やせる時間には限界があります。そうした飽和状況の中で、今の娯楽時間のパイの奪い合いモデルを続けていくと、より壮大なもの、刺激的なものを志向し続けざるを得なくなり、コストは増大し、性や暴力などの安易な刺激に頼ることで、非ゲーマー社会との断絶は広がり続けます。
 シリアスゲームはその実用性によって、ゲーム産業がこれまでカバーできなかった個人の娯楽以外の時間や、ゲームをやらない人々の時間をターゲットにすることができ、非ゲーマー社会との融和の道筋を作ることができます。社会生活の時間にゲームをする、学習や訓練のためにゲームをする、ということが起これば、これまでのやり方ではアプローチできなかった領域もゲーム産業が対象とする市場になります。
 そしていったん人々の娯楽以外の学習や社会生活の時間に入り込んでいくと(あるいは、娯楽の時間が他の社会生活の時間と融合していくようになると)、その時間のあり方自体が変わっていきます。楽しんで学べるようになったり、難しくてできなかったことができるようになったりして、ゲームの持つパワーが個人の営みそのものを変え、個人の持つ可能性を引き出すエンジンとして機能するようになります。今回のセッションをきっかけに、ゲームによって社会を変える、ということを「シリアス」に捉え、その実現のために活動しようという方が少しでも増えることを期待しています。