2009年のシリアスゲーム動向を振り返る

 しばらく更新できずにいましたので、ご紹介したい情報がたまりすぎてしまいました。キャッチアップの意味も含めて、今年の国内外のシリアスゲーム動向について少し振り返りたいと思います。

 今年もシリアスゲーム系のイベントは、GDCで行われるSerious Games Summit、Games for Change, Games for Healthの年次カンファレンスがすっかり定着したほか、学会や商業カンファレンスのサブセッションテーマとしてシリアスゲームを取り上げる動きはもはや珍しくなくなりました。

 そうした流れに加え、今年一番注目を集めたのは、米国でオバマ大統領が教育政策の一環としてデジタルゲーム活用を明確に示したことでした。ESA、ソニー、マイクロソフト、マッカーサー財団など、ゲーム業界団体や大手ゲーム会社と非営利財団が協力して、数学・科学教育支援のために図書館へのPS3寄付やゲームコンテスト開催などの一連の活動に着手しています。これまでは政治家がゲーム業界を敵にした動きばかりが目立ちましたが、これでゲーム業界への政治的な風向きも変わることが期待できそうです。ゲーム業界団体はこれまでレーティングによる自主規制など防御的な動きが中心でしたが、今回はゲームの良い面に積極的に目を向けさせた働きかけが功を奏したと言えるでしょう。

アメリカ政府がPS3を教育機関に導入(Kotaku Japan)
http://www.kotaku.jp/2009/11/lbp_game_competition.html
注目! オバマ大統領のゲーム教育政策(Kotaku Japan)
http://www.kotaku.jp/2009/11/obama_game_education.html
オバマ大統領「ゲームは科学や数学への興味を維持させる」-米国で教育ゲームを競う二つのコンテストが開催(インサイド)
http://www.inside-games.jp/article/2009/11/27/39029.html
ESA, Sony, Microsoft Respond To Obama’s Call For STEM Education(Serious Games Source)
http://www.seriousgamessource.com/item.php?story=26203

 そのほか海外の状況として目立ったのは、韓国での盛り上がりでした。韓国ではシリアスゲームは「機能性ゲーム」という名称でここ数年で徐々に普及が進んでいましたが、今年5月に韓国政府が、2012年までにこの分野に800億ウォン(約60億円)を投じて5000億ウォン(約370億円)規模の市場を育成すると発表したことで、機能性ゲーム市場形成に向けた動きが大きく進んでいます。9月にはソウルで機能性ゲームフェスティバルが行われ、機能性ゲーム市場の創出を京畿道地域の産業振興策として取り組む動きが起きています。また、NHNやNCソフトなどの韓国のゲームソフト会社でも機能性ゲーム部門を設置して製品開発を行っており、G-Starのようなゲーム業界のカンファレンスでも数々の機能性ゲーム製品がプロモーションされるなど、この市場に対応した動きが進んでいます。

韓国政府がシリアスゲームへ60億円投資
http://seriousgames.jp/2009/05/60-1.html

【韓国】非暴力、機能性ゲーム、成功へ向け翼を広げる(internet.com)
http://japan.internet.com/busnews/20091117/5.html

 国内では東京大学の馬場教授のグループがシリアスゲームへの注目を集める取り組みをけん引しており、今年はバンダイナムコ、品川区との新たな共同研究プロジェクトの取り組みに着手しています。

東京大学とバンダイナムコ「ゲームと教育」をテーマとした共同研究プロジェクト発足
http://seriousgames.jp/2009/07/post-66.html

 NHKが主催する教育コンテンツ国際コンクール「日本賞」で、昨年に引き続いてシリアスゲームのセッションが行われました。

教育コンテンツ国際コンクール”第36回日本賞”が開催! 佐藤隆善氏、水口哲也氏がシリアスゲームの可能性を語る(ファミ通.com)
http://www.famitsu.com/game/news/1228908_1124.html

 文部科学省の取り組みとして、インターネット上で科学技術について楽しく学べる子ども向けゲームコンテンツ「ワンダーシリーズ」が提供されています。先日は第3弾の「宇宙ワンダー」が公開されました。このようなシリアスゲーム関連の国内事例も徐々に増えていっています。

ネットでロケット発射体験!「宇宙ワンダー」の公開(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/21/12/1288225.htm

 あとはやや手前みそですが、3冊目のシリアスゲーム関連書の出版、国内初の取り組みとして、大学でのゲームクリエイター教育プログラムにおいて、シリアスゲーム論の科目が設置されました。

「デジタルゲーム学習-シリアスゲーム導入・実践ガイド」の内容紹介
http://seriousgames.jp/2009/04/post-49.html

東京工芸大学「シリアスゲーム論」最終報告会
http://seriousgames.jp/2009/07/723.html

 2010年も国際カンファレンス等のシリアスゲーム関連イベントが世界各地で計画されており、今後もシリアスゲーム普及の動きは続きそうです。国内の動向については、海外とはやや異なる形で推移している面もあるため、少しその辺りを整理して解説する機会を持ちたいと思います。今後も新たな動きが出てくると思いますし、こちらでキャッチできていない情報がありましたら(seriousgamesinfo [atmark] anotherway.jp )までぜひお寄せください。2010年もシリアスゲームジャパンをよろしくお願いいたします。

デジタルゲーム学研究: シリアスゲーム特集投稿論文募集のお知らせ

日本デジタルゲーム学会の学会誌「デジタルゲーム学研究」の第4巻第2号(2010年9月発行予定)では、シリアスゲーム特集を企画しており、現在投稿論文を募集しています。

本特集は、シリアスゲームジャパン代表藤本が特集エディターを担当してます。シリアスゲームや関連分野の研究・開発に取り組まれている方はぜひ投稿をご検討ください。ご検討にあたり、ご質問やご相談等ございましたら、tfuji <at> anotherway.jp までお気軽にお問い合わせください。

なお、論文投稿は学会員であることが条件となっておりますので、投稿ご希望の方を含めシリアスゲームにご関心のある方、どうぞこの機に当学会への入会もあわせてご検討ください。

— 募集概要(日本デジタルゲーム学会ウェブサイトより転載)—

□ テーマ    シリアスゲーム研究
□ 投稿締切   2010年 1月31日
□ 掲載予定   2010年 9月発行の学会誌(第4巻2号)
□ 対象分野

シリアスゲームは、デジタルゲームの教育的、社会的活用全般を括る概念として今世紀に入り欧米を中心に急速に関心が高まりました。日本やアジア各国でも、学校教育、企業内教育、医療福祉分野をはじめとする各分野でのシリアスゲーム開発、デジタルゲームを利用した教育活動など、このテーマの興味深い取り組みが進められています。

本特集では、各分野でのシリアスゲームに関する研究や実践について、幅広く論文を募集いたします。例えば、以下のような研究が本特集の対象となります。

■ デジタルゲーム技術の社会的利用事例
■ デジタルゲーム利用教育実践や理論的枠組に関する研究
■ シリアスゲームの開発・評価に関する研究

また、関連する研究テーマとして、プレイヤーコミュニティの学習文化や、セカンドライフのような仮想世界プラットフォームの教育利用などの研究についても本特集の対象としています。

□ 投稿要領
通常の論文投稿規程に準じる。投稿原稿の採否は、本学会が定める査読制度によって決定する。編集委員会の判断により、特集論文ではなく一般投稿論文として、または本特集の号ではなく別の号に掲載される場合がある。なお、投稿方法に関してE-mailの場合は件名を
「特集:シリアスゲーム研究」
とし、郵送による投稿に際しては、原稿の 1 ページ目および封筒に
「特集:シリアスゲーム研究」
と朱書きすること。

□ 問合せ先: g012digra_j-editorial [at] ml.gakkai.ne.jp

特集エディター
藤本 徹(東京工芸大学/立命館大学)

Foundations of Digital Games 2010 発表論文募集

デジタルゲーム研究の国際会議、FDG 2010: The 5th International Conference on the Foundations of Digital Games が来年2010年6月19~21日にカリフォルニア州モントレーで開催されます。
http://fdg2010.org/

現在、発表論文が募集されており、下記のようなゲーム関連研究のテーマが対象となっています。

1) Artificial Intelligence
2) Computer Science and Games Education
3) Game Design
4) Game Studies
5) Graphics and Interfaces
6) Infrastructure (Databases, Networks, Security)
7) Learning in Games

応募方法詳細:
http://fdg2010.org/Call_for_Papers.html

(参考)今年のFGD2009の発表論文一覧
http://portal.acm.org/toc.cfm?id=1536513

シリアスゲームサミット講演者募集、まもなく締め切り

2010年3月9~13日にサンフランシスコで開催されるGame Developers Conference期間中に行われる、シリアスゲームサミット他、各サミット(いずれも3月9~10日開催)の講演者が募集されており、〆切は今週11月13日金曜までと迫っております。

募集されているのは下記の5つのサミットです。

– GDC Mobile/Handheld
– iPhone Games Summit
– Independent Games Summit
– Social & Online Games Summit
– Serious Games Summit

詳細:
http://www.gdconf.com/conference/summitsubmissions.html

シリアスゲームサミットは2004年に第1回が行われ、今度が7回目になります。シリアスゲームの最新動向を知ることができる良い機会です。一般参加申し込みも始まっています。早期割引が受けられる早めの時期にぜひ参加をご検討ください。

NHK日本賞:佐藤隆善氏が水口哲也氏とシリアスゲームを語る(10/26)

 NHKが主催する教育コンテンツの国際コンクール「第36回日本賞」のイベント「クロスメディア・フォーラム」で行われる「ミート・ジ・エキスパーツ」で、10月26日に「シリアスゲームとは?GAMEが教育にもたらす力」と題したセッションが行われます。コナミ、EAのアートディレクターを務めた後、米国のシリアスゲーム開発会社「バーチャル・ヒーローズ」に移籍して活動している佐藤隆善氏が来日し、同じくゲームクリエイターとして著名な水口哲也氏(キューエンタテインメント代表取締役)とシリアスゲームについて討論するという内容です。イベント詳細は、下記日本賞ウェブサイトをご参照ください。

「第36回日本賞:ミート・ジ・エキスパーツ」(会場:NHK本館4階正面玄関ステージ)
—NHK日本賞ウェブサイトより転載—
10月26日(月)17:30~19:00
シリアスゲームとは?GAMEが教育にもたらす力。
ゲームは遊び方や使い方によってさまざまな用途に役立つ。シリアスゲームの定義とは何か?
~新しいメディアの可能性や活用法についての専門家たちによる討論会~
ゲスト:
佐藤 隆善(アートディレクター、バーチャル・ヒーローズ)
水口 哲也(プロデューサー/CCO、キューエンタテインメント株式会社代表取締役)
モデレーター:
中谷 日出(NHK解説主幹)

NHK日本賞「クロスメディア・フォーラム」詳細・参加登録
http://www.nhk.or.jp/jp-prize/contest/event/index.html
「ミート・ジ・エキスパーツ」概要紹介ページ
http://www.nhk.or.jp/jp-prize/contest/event/experts2009.html

シリアスゲームフォーラム開催のご案内(9/15)

 第4回目のシリアスゲームフォーラムが9月15日(火)に開催されます。今回は「採用市場におけるビジネスシミュレーションの新傾向」というテーマで、さまざまなシミュレーション研修を開発、提供されている山内真一郎氏(創作株式会社代表取締役)をゲストスピーカーとしてお招きして、実際にビジネスシミュレーション体験も交えたセッションが予定されています。


第4回シリアスゲーム・フォーラム
テーマ「採用市場におけるビジネスシミュレーションの新傾向」
ゲストスピーカー: 創作株式会社代表取締役 山内真一郎氏

内容:
武田薬品工業株式会社向けにオリジナル開発したビジネスシミュレーションゲームを体験していただき、採用市場でのシリアスゲーム活用状況の情報共有と、新しい市場の可能性を展望します。

日時: 2009年9月15日(火) 18:30~20:40 (開場18:00)
場所: スリーロック(株) 4Fセミナールーム
(小田急線・千代田線代々木上原駅前)
定員: 15名(先着順定員に達し次第締め切ります)
会費: 2000円(学生:1000円) ※当日会場にてお支払いください
主催: スリーロック株式会社
協力: シリアスゲームジャパン

開催概要、アクセス方法等詳細(PDF)
http://www.3rockconsulting.com/pdf/seriousgame4.pdf

参加ご希望の方は下記のフォームからお申し込みください。 
http://www.3rockconsulting.com/form2.html

e-とちぎ、防災ゲームの紹介イベントを開催(8/9)

 8月9日(日)に栃木県宇都宮市の栃木県防災館で開催される「栃木県防災体験デー」において、最新の防災用品とサービスの展示紹介と即売を行う展示即売コーナー「防災用品フェア」が行われます。このイベントは、特定非営利活動法人e-とちぎが企画協力したもので、イベント中では防災知識を扱ったゲームも取り上げられており、下記のような防災ゲームの体験・即売が行われます。

「GURAGURA TOWN」(特定非営利活動法人プラスアーツ [ http://plusarts.exblog.jp/ ])
「D-moment」(株式会社SGラボ [http://d-moment.jp/ ])
(※ 「D-moment」は来場者全員に無償配布されるそうです。)
「地震DS72時間」(株式会社イオタ [http://www.jishin72.net/ ])
「絶体絶命都市」(アイレムソフトウェアエンジニアリング株式会社 [http://www.zettai-zetsumei.com/ ])
 

イベント概要:
栃木県防災館「防災館ふれあいデー」内「防災用品フェア」
開催日時:8月9日(日)   09:30~16:00
会場:
栃木県防災館および栃木県消防学校グラウンド
宇都宮市中里町248
http://www.pref.tochigi.jp/prevent/bousai/chishiki/1181881836579.html
対象:一般市民
参加費:無料
主催:財団法人 栃木県消防協会(栃木県防災館指定管理者)
コーナー企画・運営:特定非営利活動法人e-とちぎ

東京大学とバンダイナムコ「ゲームと教育」をテーマとした共同研究プロジェクト発足

 東京大学の馬場章研究室とバンダイナムコゲームスが”ゲームと教育”をテーマとした共同研究プロジェクトを発足するとの発表がありました。

 ゲームの教育利用に関する研究や学生の職業体験と学習を組み合わせた「リサーチインターン」と呼ぶ取り組みを行うとのことです。またこのプロジェクトは品川区教育委員会と連携して、品川区の教員や保護者、子ども向けの各種イベントを通して、教育現場におけるICT活用のための啓発活動を行うと発表されています。この活動として、8月6日に「ICT時代の子どもの未来を考えるシンポジウム」を開催することが告知されています。

 ゲームの教育利用に関する研究は、これまでにもさまざまな取り組みが行われてきたにも関わらず、多くの課題に直面してそれほど普及が進んでこなかったという経緯があります。シリアスゲームへの関心の高まりとともに最近再び各分野で関心の高まっているテーマですので、このプロジェクトから良い成果が示されることを期待したいところです。

この記事に関するプレスリリース(PDF)
http://www.bandainamcogames.co.jp/corporate/press/pdf/20090729.pdf

ICT時代の子どもの未来を考えるシンポジウム詳細(馬場研究室ウェブサイト)
http://chi.iii.u-tokyo.ac.jp/?p=950

ソマリアの海賊問題をテーマにしたゲーム

 Wired マガジンがソマリアの海賊問題をテーマにしたゲーム「Cutthroat Capitalism」をリリースしました。

 このゲームでは、プレイヤーはソマリア海賊の指揮官として、アデン湾周辺を航行する船を捕縛して人質を取り、交渉を成功させて身代金を得るのが目的で
す。ソマリア海賊の経済活動に焦点を当てているのがこのゲームの特徴です。海賊の指揮官が部族長や投資家から資金援助を受けていて、海賊行為を成功させて
資金を返す必要があることや、部下の海賊へ分け前を渡す必要があるので交渉で得られる身代金を最大化しないといけないところがゲームで表現されています。

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Cutthroat Capitalismゲーム画面(Wired Websiteより)

 船の捕縛活動パートはとてもシンプルに表現しつつ、交渉パートは交渉の出方や人質の扱い方などを設定できるようになっており、交渉の駆け引きの過程をシンプルなモデルでバランス良く表現しています。

 ゲームとしての出来もよく、目的に合わせてプレイ時間を短く設定し、ゲームで表現したい点に焦点をうまく絞って表現できています。時事的な社会問題をテーマにした「ニュースゲーム」の良い例だと言えるでしょう。ゲームは下記Wired Magazineウェブサイトで無料でプレイできます。

ゲーム紹介ページ:
Cutthroat Capitalism (Wired Magazine)
ゲームのテーマについて解説した記事:
An Economic Analysis of the Somali Pirate Business Model (Wired Magazine)

追記:Wired日本版の記事も出ました。
http://wiredvision.jp/news/200907/2009072920.html

CEDEC2009開催

日本最大のゲーム開発者カンファレンス、『CEDEC2009』が下記の要領で開催されます。

  • 名称: CEDEC 2009 (CESAデベロッパーズカンファレンス2009)
  • 開催日: 2009年9月1日(火)~3日(木)
  • 会場: パシフィコ横浜 会議センター(横浜西区みなとみらい)【MAP】
  • 主催: 社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)
  • 共催: 日経BP社
  • 後援: 経済産業省
  • 受講対象者
    ・ゲーム開発に携わる方。コンシューマ、ケータイ、ネットワーク等、プラットフ ォームは問いません
    ・エンターテインメントコンテンツ制作、ビジネスに携わる方
    ・関連の技術、機器等の開発に携わる方
  • 詳細: こちらからご確認ください