シリアスゲームサミットGDC2005 (5)

教育現場でのCOTS(市販製品)ゲーム利用状況の調査
John Kirriemuir
Kirriemuir氏は、イギリスにおける市販ゲームの学校教育利用に関する調査を2001年から継続して行なっている。今回の発表は、2005年度版調査の中間報告として行なわれた。この調査では、いわゆるエデュテイメントゲームは対象とせず、あくまでエンターテイメント用の市販ゲームが学校教育・学習で活用される事例を対象とし、それらの市販ゲームが教育にいかに活用され、どのような可能性を持っているかを示すことを調査目的としている。今回の調査の現時点での結論は次のようなものである。
1. ゲームの学校教育での利用は増加している。
2. ゲームを教室で利用している教師はその実践状況について喜んで語る。その同僚も否定的ではなく、むしろその活動を関心を持って注目している
3. すべての教師は、自身がゲームプレイヤーというわけではない
4. 教師達はゲームをゲームとしてみるというよりは、ホワイトボードなどと同じツールとみなしている。そしてそのツールがいかに教育・学習の役に立つかという興味を持っている。
5. 利用されるゲームは幅広く、タイクーンゲームやダンスゲームをはじめ、よりユニークなゲームが使われている。
6. 先端を行く教師達は、さらにゲームを利用していくことに興味を持っているが、そのための予算の確保が最大の障壁となっている。


プレゼンテーション要旨:
前回までの調査で、次のようなことがわかった。
・ほとんどの利用事例は、昼休みや課外活動、よい行ないのごほうび、うるさい子ども達を静かにさせるための道具といった、教科カリキュラム外の利用であった。
・イギリスでの事例は学術研究のための実験的利用が多かった。
・ほとんどすべての事例でWindowsPCが使われていた。プレイステーションが利用される例もわずかに見られた。
・「ゲームを学校で使う」という漠然としたコンセプトへの否定的な意見が全般的に見られた。
・その一方で、多くの教師たちはゲームを使うことへの関心を持っているが、次のような理由で挫折を余儀なくされている
1. 想定される同僚や役人、親からの(否定的な)反応
2. 実際に教室でゲームを使って成功した事例が少ないこと
3. ゲームに熟練した子ども達を相手にすることで、授業の目的達成やコントロールができなくなってしまう可能性
4. 市販ゲームがカリキュラム標準に沿った使い方ができると実証されていないこと
5. 学校のコンピュータは最新ゲームを動かすにはパワー不足であるということ
6. ゲームを教室で使う前に、教師達がゲーム自体を学習する時間が必要だということ
7. ゲームを使った授業をするには標準の授業時間が短すぎること
教育分野の人々は、ゲームを教室で使うことに対してさまざまな誤解や不安を持っており、それらは次の4つのカテゴリーに整理できる。
1. ゲームによって、 教師の役割が軽くなり、今までやっていたことの多くが不要になって、教師はただコンピュータの電源を操作するだけの補助者となってしまうのではないか
2. 子ども達の方がゲームに慣れているので、教師は置いていかれて無駄な存在になるのではないか
3. ゲームだと個別学習化が進み、子ども達同士のコミュニケーションを阻害するのではないか
4. 教師をトレーニングするコストよりもゲームを使ったほうが費用対効果がよいということになるのではないか
つまり、ゲームが教室に入ってくると、教師は不要になるのではないかという不安がその根底にある。
しかし、この調査でわかったのは、その逆で、ゲームによって教師が不要になることはない、ということである。
事例1: ズータイクーン
・ 算数の成績が極端に悪く、学習指導困難な小学校高学年の生徒10数名を対象に、「ズータイクーン」を使った教育を実施。
・ 週数回、授業時間のうち15分ほど、プロジェクターを使って授業に利用した。
・ ゲームをディスカッションのツールとして利用。何を買うか、どの檻を使えばよいかなど生徒達に意見を聞きながら、ゲームを進め、その結果を見ながらなぜそうなったのかを議論した。
・ 楽しい上に、 算数の知識(標準カリキュラムの「現実問題とお金」ユニットへの対応)、計画的思考、協調性、相互学習、集中時間ややる気の持続、といった面での改善効果が見られた。ごほうびとしての効果もあった。
事例2: ミスト
・ 小学校高学年の約30人の生徒を対象に、英語のクラスで「ミスト」を教材として使って、説明の仕方、聞き方、観察、クリエイティブライティングを教えた。
・ (ビデオ)子ども達の集中力、言葉の使い方、文章の組み立て方、授業の運営方法、ゲームの使い方、授業の終わりを告げた時の子ども達のリアクションに注目
・ この授業の導入の結果、標準テストのスコアが大幅アップした
事例3: ハリーポッターと秘密の部屋
・ 中学生30名のクラスで、メディア教育の授業で利用
・ 一人が操作して、他の生徒が指示をする形で、このゲームは何をユーザーに与えるか、映画とゲームのメディアの違いについてを議論をした
・ また、メディアとしてのゲームを他のDVDや本などのメディアと比較分析し、ゲームがもたらす楽しみは何かについてを議論した
事例4: Who wants to be a millionaire? (クイズミリオネア)
・ 小学校高学年から中学校の生徒を対象。クイズミリオネアゲームの無料ダウンロードを利用し、エディタ機能を使って教科に関連したクイズを作成
・ 簡単で感覚的にクイズ作成が可能で、クイズ問題のストックがあればよいと感じた
・ 子ども達は男女を問わずみんな楽しんでいた。子ども達の集中力は大変なもので、とくに音楽が子ども達の注意を引くのに効果があった。成績の悪い子のクラスでも効果的であった
・授業の導入にこのクイズゲームを使って、ゲームオーバーになったら通常授業に戻るという使い方をした
事例5: スクールタイクーン
・ 小学校高学年の30名クラス(3クラス)で利用。当初はシムシティ4を使う予定だったが、細かすぎて90分授業には使いにくいと考え、思考力、会計知識、計算力、社会性といった能力開発に役立つツールとしてスクールタイクーンを選択。
・ 子ども達にこのゲームを1時間ほどプレイさせ、その結果をもとに議論したところ、学校運営のさまざまな業務が学校運営の成否にいかに関わっているかということを考えるようになった
事例6: DDR
・ 中学から高校の女子の体育教育にDDRユーロミックスとダンスマットを利用
・ 女子生徒たちはみな積極的に参加。昼休みも課外活動の時間も熱中してやる姿が見られた
・ 男子もやりたがったが、女子ほどはうまくなく、男子が自信を持ちがちな体育で女子が積極性を発揮するという効果があった
・ あまりによく使うため、ダンスマットがすぐ壊れてしまうという問題が発生した
・ やる気の低かった生徒の参加率向上、運動能力の改善への意欲向上
事例7:レゴを使ったゲーム開発学習
小学校、中学校レベルの生徒を対象にレゴプログラミングによるゲームソフト開発を通した学習、コンピュータクラブでの課外活動時のプログラミング学習事例
事例8: アウステルリッツの戦い
・ 大学学部レベルの西洋文明史の授業にてブレイクアウェイ社の「アウステルリッツ」を利用。アウステルリッツの戦いにおけるナポレオンの戦術や戦略的意思決定への理解を深めるためのツールとして用いられた。シナリオモードで学生をチームに分けてそれぞれのエリアの戦闘の責任を与えてプレイさせた。
「ゲームを使った教育における教師モデル」
以上のような事例を通して、ゲーム利用教育を成功させる上で求められる教師モデルが見えてきた。
・ 「ガイドとしての教師」モデル: 教師がゲームを操作し、シナリオ内でいかにプレイを進めるべきかを子ども達に考えさせる。生徒が操作を交代することも可。一台のコンピュータをプロジェクタにつないでクラス全体でゲームする。
・ 「審判としての教師」モデル: クラスをチームに分け、チーム内で協力して、相手チームとは競争してゲームをプレイさせる。教師は課題と答えを設定し、生徒達を支援し、ゲーム後の議論を取り仕切る。
・ どちらのモデルにおいても、すべての参加者はコミュニケーションに参加する必要があり、教師とゲームは授業の軸として機能する。(つまり、教師は重要な役割を果たす)