シリアスゲームサミットDCレポート(4)

レクチャー:流動的学習環境の未来とその評価
スピーカー: Aaron Thibault (IC2デジタルメディアコラボラトリー、研究開発コーディネーター)
「–学習装置としてゲームを利用するのは新しいことではないが、その利用法、そしてさらに重要な学習結果測定の方法は、まだ未成熟であると言ってよいでしょう。ゲームが学習の場における刺激的なテクノロジーであるのと同じように、刺激的な学習効果をもたらしてくれることを人々は期待しているため、効果測定は非常に重要なキーワードとなっています。しかし、まだ我々はゲーム学習の効果測定については無声映画の時代にいるような状態です。このセッションでは、これまでのゲーム学習の効果測定研究を整理し、特に多様な選択肢や経験を織り込んだ流動的学習環境としてのゲームと、従来型の教育方法の比較しながら解説します。参加者はゲーム学習のための測定ツールの概要と、この研究分野が展開する将来像についての知見が得られるでしょう。–(セッション概要より)」
テキサス大オースティン校のIC2デジタルメディアコラボラトリーの研究員として学習用ゲームの研究開発に携わるThibault氏は、レクチャーで次のような点について言及した。


– マルチプレーヤーオンラインゲーム(MOG)は、結びつきの強いコミュニティを形成し、ゲーム世界内での社会的、経済的活動を生んでいる。また、その複雑な環境の中で、学習やメンタリングが起こっている。
– ゲームを使って教えられることは、ゲームの有効性に関する研究から明らかになっているが、ゲームから何を学んでいるか、何が一番学べているのかについては、正確には把握しきれていない。
– ゲームデザイナーは面白さを創造することに関心があり、インストラクショナルデザイナーは人々を学ばせることに関心がある。インストラクショナルデザイナーは確立された学習支援の手法を用いるが、想像が及ぶ範囲はゲームデザイナーよりも狭い。楽しさと学びの融合が新たな分野の学習のために確立できれば、より大きな成果につながる。
– 従来の学習効果測定は、標準テストや成績評価で行なわれてきた。ゲームの学習効果測定のためには、新たな測定モデルを確立する必要がある。
– 生体反応測定もゲーム中の脳や身体の反応を通してどのような学習が起こっているのかを測る手法として活用されている。MRIや、眼球運動測定、脳波測定などの各種手法があるが、これらですべてをカバーできるわけではない。
– 新たなゲームの学習効果測定の枠組み作りのために、次のような分野の方法が活用できる
 ・認知心理学
 ・ゲームデザイン
 ・ビジネス交渉
 ・複雑系理論
 ・社会ネットワーク理論
 ・マシンラーニング
 ・ニューロバイオロジー
 ・教育理論
– たとえば、ヴィゴツキーの構成主義理論や、チクセントミハリのフロー理論なども活用できる。
– 学習者はゲームプレイヤーであると同時に、ゲームの中で自分の環境を構築するゲームビルダーでもある。ゲームの中で何かを作り上げることで何かを学んでいる。
– ゲーム内のエージェントは、教師やメンターとして機能する。フィードバックシステムは、評価者である。
– ゲーム内の活動は、社会的であり、リアルタイムな中で常に変化があり、人々をひきつけ、環境に埋め込まれたものである。この環境の中での学習は、流動的であり、抽象的なものである。
– 学習効果測定は、人とエージェントの協調型ネットワークがベースとなる。
– 起こっている学習は、確立、改善、維持、変更、統合、操作、など、どのようにも解釈が可能である。
– 学習者の反応から学習するAIの活用も有効である。学習者の対応に合わせて適切な知識を提供し、学習者ごとの知識マップを生成し、方策、技術、手順などを示す。
– ゲームの学習効果測定は次のような項目への対応が第一歩となる
 ・環境に埋め込まれた知識
 ・知的コラボレーションツール
 ・過程参照図とバーチャルツール
 ・社会的関係性
 ・リアルタイムフィードバック
 ・人間同士の相互作用
 ・ランキング
Digital Media Collaboratory(ゲーム学習に関する論文などを掲載)
http://dmc.ic2.org/