パネル:ゲームは将来の人の振る舞いをどう形成することができるか?
パネリスト:
ジム・ジー(ウィスコンシン大学教授)
デボラ・リーバーマン(カリフォルニア大サンタバーバラ校教授)
エレイン・レイボーン(サンディアナショナルラボ、アドバンストコンセプトグループ)
デビッド・ラジェスキー(ウッドロー・ウィルソン・インターナショナル・センター・フォー・スカラーズ、ディレクター)
「– 複雑な専門知識の深く理解するには、個々の行動を起こす論理を形成するような対人関係のシミュレーションと、その中で他者と交流できる環境を提供することが必要であると考えられています。ゲームがそれにどこまで対応しているかという点については議論がありますが、ゲームが幅広い学習科目において人々の態度を変える潜在能力を持っているということは明らかです。ウィスコンシン大学教授で「What Videogames Have To Teach Us About Learning And Literacy(ビデオゲームが学習とリテラシーについて教えてくれること)」の著者であるジム・ジー教授がリード役を務めて、ゲームと行動変容の関係、そしてその応用について議論します。(セッション概要より)–」
ジム・ジー(ウィスコンシン大学教授)
「知識伝達のレベルは3段階。1. 知識伝達は簡単である、2. 知識伝達は無理である。何かを知ってもらうには教え込む必要がある。3. 知識伝達は可能、だが難しい。実現するには何らかの働きかけが必要。3番目が教育理論の現状認識である。」ジー教授はこのように切り出し、彼のこれまでの研究からの知見を以下のように整理した。
– 知識伝達は手軽でも低コストでも手っ取り早いものでもない。大変なことである。だがゲームは知識伝達にとても向いている。
(1) 学習結果について
1. 学習は学習環境がもたらすものであり、ツールがもたらすものではない。
2. コンテンツは事実でなく実践(ゲームプレイはこれがすべて)
(2) 初期条件について
3. 学習(挑戦)への方向付けを提供するのであり、手順(間違い)を示すのではない
4. すでに持っている知識を活性化すること
5. カルチャーを認識すること
6. 染み付いた誤った考え方をそぎ落とすこと
7. 目的(全体像)と機能性(自分が達成できるイメージ)を示すことでモチベーションを生み出すこと
8. 社会性を高めること
(3) 習得
9. 習得ができることを第一に
10. 時間をかけてたっぷり練習機会を提供
(4) 学習条件
11. 教え込みを減らして、多くの習得
12. 事実や決まった手順でなく、理解の仕方を教える
13. 常に近くにいつつも、新しい学習の余地を生むだけ距離を持つ
14. 入念な学習状況の自己確認を奨励する
15. 事実を学ぶことでなく、理解を促すフィードバックを与える
16. 事例を比較させる
17. 多様な文脈における概念を教える
18. 何通りかの説明方法を活用する
(5) 言語
19. 行動イメージの中に新しい言語を組み込む
20. 対話と報告を活用する
21. 予測と期待を活用する
22. 適切なタイミングで情報を与える
23. 一方的な説明(講義、モノローグ、テキスト)に対して心の準備をさせる
例:Rootlearning.com( http://www.rootlearning.com/ )、Full Spectrum Warrior(Xboxのシューティングゲーム)
以下、他の3名のパネリストからは次のようなことが言及された。
デボラ・リーバーマン(カリフォルニア大サンタバーバラ校教授)
– 行為を通した学習(Learning by doing)は重要であり、ビデオゲームはそれを生み出すのに有効なメディアである。
– ゲームデザイナーはそのゲームによる学習目標をきちんと定めることが重要
– クライアントはゲームでどのような教育ができるかを具体的に理解しているわけではないので、どのような学習が行なわれるべきかをクライアントとよく話し合った上で開発を進めるのが早道
– ゲームはリアルな経験をもたらす。メディア上でのインタラクションは社会的な営みであり、感情的なやり取りも行なわれる。
– ゲームは人をひきつけ、フロー状態(完全没頭した状態)を引き起こす。
– ゲームは参加型のメディアであるので強力である。プレイヤーの興味をひきつけ、ゲームを進める過程で意思決定や学習を促す。事実を学ぶためのゲームではなく、行動を促すゲームを提供すべき。
– ゲームはロールモデル(お手本)を示す。プレイヤーはゲームキャラクターの行動から学ぶことができる。ゲームにはよい行動や成果に報酬を与える仕組みがある。こうしたフィードバックは現実生活にも影響する。
– ゲームは達成を通して、自己効力感を生む。
– ゲームは広い文脈の中の一部として扱えるので、ゲームのネガティブな面を心配する必要はなく、ポジティブな効果に目を向けていけばよい
エレイン・レイボーン(サンディアナショナルラボ、アドバンストコンセプトグループ)
– ゲームは文化的経験を与えるものである。プレイヤーはその環境下で何かを実行する自信をつける
– ゲームは一連のアルゴリズムであり、その中でプレイヤーは将来起こりうる問題にどう対処するかを理解できる
– ゲームでAddiction(中毒状態)を生み出すことは重要だが、ゲームへのAddictionだけでは十分ではなく、そのゲームが模している現実世界にAddictionを起こすのが重要
デビッド・ラジェスキー(ウッドロー・ウィルソン・インターナショナル・センター・フォー・スカラーズ、ディレクター)
– 数年前、オランダでシミュレーションを見て、その可能性にひかれてゲームに関心を持つようになった。それまで関心を持っていたeガバメントについてはもうどうでもよくなって、行政分野でのゲームの活用(gガバメント)への関心が高まった
– 行政分野では、予算編成やエネルギー問題のような数多くの複雑な問題がひしめいている。いずれも政策実行が伴うものであり、担当者は適切な判断をもとに問題解決にあたらなければならないが、大変な困難が伴う。ゲームはそうした問題状況をシミュレートして、訓練機会を提供するのに向いている。
– 「ブラックスワン」と呼ばれる全く予期できない難事(9/11やベルリンの壁崩壊など)が起こる。それに対して対処する訓練はどうやったらできるか?ゲームを通した訓練によってそうした事態への気構えを形成できる
– ゲームは次の4つの機会を提供できる
(1) システムの全体の動きを見る力をつける。全体を見る能力はリーダーシップを取るのに重要。シムシティやズータイクーンのようなゲームはそうした機会を提供するゲームの一例。
(2) 知の共同体経験。人々と知恵を集めて問題に取り組む機会。
(3) 安全な失敗の場。失敗が許されて奨励される環境だと人は学びやすい。ゲームはそんな環境を提供できる。
(4) 驚かされる練習。予期せぬ緊急事態でどう振舞うかを練習できる。
読んでいて、非常に参考になります。
詳細なメモ、ありがとうございます。