GLSカンファレンスレポート

 ゲームと学習、社会の関わりをテーマにした学術会議、GLS(Game+Learning+Society)カンファレンスが、ウィスコンシン州の州都マディソン、モノナテラスカンファレンスセンターにおいて2005年6月23、24日の二日間にわたり開催された。
 セッションはシンポジウム、プレゼンテーション、ワークショップの形式で計32セッション実施された。各セッションには「大学や高校の教室でのゲーム活用事例」「ユーザーが主導する変化」「教育とゲーム、教育におけるゲーム」「ゲームデザインイノベーション」「ゲームと学習とアイデンティティ」「ゲームと認知の理論」「ゲームの効果」といったテーマが設定され、そのテーマへの理解を深める内容の発表がそれぞれ行われた。ポスターセッション会場では、20の研究、開発事例が実際に体験できるデモとともに展示発表された。


 来場者は当初予定定員250人を上回る300名で札止め満員御礼。教育、心理、医療等、多様な領域の研究者、学校教師、ゲーム開発者、軍事、政府系団体関係者、など、これまでのシリアスゲーム関連のカンファレンスと同様に多様な顔ぶれの来場者が集まった。開催地の地元ウィスコンシンや米中北部からの参加者が目立つ一方、フロリダやカリフォルニアなど、シリアスゲームプロジェクトの盛んな地域からの来場者も多く見られた。イギリスや北欧など海外からの研究者も数名いて、中にはこのカンファレンスのためだけにはるばるやってきた韓国の研究者もいた。
 初日一つ目のセッションでは「ポップカルチャーと生活」のテーマで、MITのヘンリー・ジェンキンスと、ウィスコンシン大のジェームス・ジー、というシリアスゲーム研究分野を代表する二人が発表した。ジェンキンス博士は、東京の代々木公園でパフォーマンスをしているコスプレ(Cosplay)グループとヤンキーグループの二つのサブカルチャーを対比し、コスプレ文化は、米国の若者が憧れて取り入れ、米国の文化となりつつある日本発の文化であるのに対し、ヤンキー文化はアメリカ文化への日本の若者が憧れて取り込んでいる文化であると考察した。そしてそれらが一つの場所で繰り広げられていること、単に消費されるだけでなく創造につながるものであることから、文化の植民地化ではなく、コスモポリタン化が起こっているという考えを示した。また、生きていくうえで必要なスキルと学校の勉強で身につけられるスキルが、メディアの高度化、複雑化に伴ってますます進行していることなどに触れながら、メディアリテラシー教育は各教科カリキュラムの中に埋め込まれた形で実施されるべきであるとの見解を示した。
 ジー博士は、学ぶための読解力の停滞が見られる小学4年生のスランプと、大学生のスランプ現象について触れ、これらの現象に学校教育は対応できていないことを指摘した。そして遊戯王カードの複雑なルールと膨大な情報を理解し、遊びとして楽しんでいる子ども達や、リアルタイム戦略シミュレーションゲーム「ライズオブネイションズ(マイクロソフト)」のゲーム後に提供される統計データなどを例に挙げながら、ゲームの利用が教育問題解決に有効であるという自論を展開した。
 全般的に今回のセッションでは、多人数参加型オンラインゲーム(MMOG)絡みの研究発表が多く、MMOGの授業での利用、プレイヤー調査といった発表が10件を数えた。スターウォーズギャラクシー、セカンドライフを大学の授業で利用した事例、中毒治療の研究者の立場からのゲーム中毒者判定基準の研究、参加型デザイン手法の研究者からみたMMOGの可能性、リネージュのプレイヤー間コミュニケーションの研究、パブリックディプロマシー活動におけるMMOG利用の可能性、などの発表が行われた。いずれも興味深い発表であったが、中でもユニークだったのは「ギルドマスターのスキルはビジネスマネージャーのスキルに応用できる」という内容のカリスマギルドマスターによる発表だった。彼はウルティマオンライン、ワールドオブウォークラフトで、200人を超えるギルドのギルドマスターとして活躍する傍ら、大手IT企業のマネージャーとして活躍している。大学アメフト選手としても活躍した彼の経歴に関連して、会場から「フットボールのスキルと比べてどうか」という質問が来た際には「ギルドのマネジメントに比べればフットボールなんてたいしたことない。大ギルドを発展維持させるのは企業のシニアマネージャーに求められるマネジメントスキルが必要だ」と答えた。さらに「優秀なプレイヤーのギルドへの勧誘、作業分担、リソース配分、メンバーのモチベーション管理など、どれをとっても企業でマネージャーとして働いていてやっていることそのものだ」という意見は、研究者の視点からの発表が多かった中で、実際のプレイヤーの声には来場者の関心も高かった。
 地元紙「ウィスコンシンステートジャーナル」が翌日の記事で「(ウィスコンシン大マディソン校の)アカデミックラボのおかげで、マディソンはゲームを利用して教育を改善するという最近のトレンドの中心にいる」と誇っているように、マディソンには、ジェームス・ジー教授率いるシリアスゲーム研究者たちのラボが設置されており、そこでは複数の研究プロジェクトが展開されている。今回のカンファレンスでは、ラボ所属の研究者たちが発表者、セッションファシリテーターとしてフルに活躍し、この研究分野の推進に一翼を担う存在であることを世に示すことに成功していた。この分野全体にとっても、彼らのラボにとっても意義のあるカンファレンスとなったと言える。