Games for Health 2008 レポート:脳トレ、ゲームの効能研究編

 Games for Health Conference 2008レポート、今回は脳トレ系ゲームやゲームの効能に関連したセッションのまとめです。HopeLabのRe-Mission関連の効果研究プロジェクト、Popcapがスポンサーとなって実施したカジュアルゲームのゲームの効能研究のセッションの概要をご紹介します。


 HopeLabのEllen Lapointe氏のセッションでは、HopeLabの開発した若いがん患者のためのゲーム「Re-Mission」のリリース後の成果と、ゲームアイデアコンテスト「Ruckus Nation」のプロジェクトの近況が報告されました。
 Re-Missionは前回のカンファレンスの際はちょうどリリースして間もない時期で、一番注目されたタイトルでした。250万ドルもの開発費がかけられ、効果測定も多くの病院で大がかりな形で実施されています。がんの知識、自己効力感などの指標で改善が見られ、このゲームをプレイすることでがん患者によい効果があることが示されました。
 開発当初は、知識面の向上を期待していたそうですが、実際に利用される様子からは、感情面やモチベーション面での変化によって治療への前向きな姿勢が形成されていることの方が重要だと気づいたことや、Re-Missionのプレイ中に起きる脳の変化を調べた結果、受動的な活動中にはない形で脳の特定部位の活性化が見られたことなどが語られました。
 プレイしたがん患者のインタビューも紹介され、「このゲームをプレイして、がんと闘ってやっつけて気分が良くなったし、がんと闘う意識を持てるようになった」という患者自身の言葉が印象的でした。
 次に、子どもたちのフィットネスに貢献するゲームのアイデアコンテスト「Rackus Nation」の紹介が行われ、賞金をかけた国際的なコンテストで多彩なアイデアが集まった様子が報告されました。優秀賞を獲得したアイデアが披露され、モーションセンサーなどのデバイスやユニークなゲームルールを組み合わせたさまざまなゲームが紹介されました。
 HopeLabでは、今後3年間かけてこれらのアイデアをもとにした新たなゲームを開発していくとのことです。HopeLabは、eBay創業者夫人のPam Omidyar氏によって設立された非営利組織です。この組織の資金的なバックボーンがあるということも、これらのプロジェクトが成功している大きな要因となっていると言えます。シリアスゲーム開発にはたとえよいゲーム企画や研究テーマがあっても、資金調達がネックになってそれをどう乗り越えるかが課題になる面がありますが、HopeLabはまず資金面での問題をクリアできていたのが大きいでしょう。
 Re-Missionについては、別のセッションでカリフォルニア大学サンタバーバラ校のDr. Debra Liebermanより、Re-Missionをストーリー描写やゲームプレイの要素を変えてカスタマイズした5タイプのバージョンをそれぞれプレイして、プレイヤーの反応の違いをみる研究の報告も行われました。ストーリー描写を変化させたり、ゲームプレイの要素を強めたりすることで、病気のリスク意識、自己効力感、治療への信頼などの異なる指標にそれぞれ相関が表れたということが報告されました。
 ゲームの効能研究については、カジュアルゲーム会社のPopcapがスポンサーとなって、イーストカロライナ大学のDr. Carmen V. Russonielloらによって同社の3種類のゲーム(Bejeweled 2, Peggle, and Bookworm Adventures)について143人のプレイヤーの心理的、生理的な変化をみる実証研究が行われており、その途中経過が報告されました。
 Dr. Russonielloは、レクレーション活動における心理的効果の研究を長年行っており、この研究もその手法を用いて行われたとのことです。
 それぞれのゲームをプレイして、緊張感、抑うつ感、怒り、活気、疲労、困惑などの指標が測定して統計分析した結果が次々と紹介されました。Bejeweled2をプレイするとストレスが軽減された、Bookworm Adventuresをプレイすると感情的バランスが改善された、など全般的にポジティブな効果があることが示されました。Bookworm Adventure は男性により大きな反応が見られた、25歳以下のプレイヤーは困惑要因の改善が大きく見られたなど、性別や年齢によって異なる反応があるという点も示されました。
 この研究は、現時点ではパイロット段階のため、今後さらに異なる条件や長期的な影響など、詳細な研究を行っていくとのことです。研究結果については、Serious Games Sourceのレポートでもう少し詳しく紹介されています。
Games For Health: Casual Gaming’s Effects on Mood, Stress(Serious Games Source)
http://www.seriousgamessource.com/item.php?story=18587
★残りの連載予定:
・ゲーム依存症研究
・リハビリゲーム研究
・医療教育用シミュレーション&仮想世界
・全体総括