「幸せな未来は『ゲーム』が創る」紹介記事

10月に出版されました「幸せな未来は『ゲーム』が創る」は、年明け早々に増刷されることになりました。新聞の書評やブログなどでも紹介していただいておりますので、また折を見てまとめてご紹介したいと思います。

今回は、先日12月27日に発行された、東京大学大学院情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」が発行するメールマガジン「Beating」第91号に、「幸せな未来は『ゲーム』が創る」の紹介記事を寄稿しましたので、こちらでも紹介させていただきます。

なお、この「Beating」は、教育工学分野の研究論文紹介や、BEATで開催しているBEATセミナーの情報などを掲載して月1回発行されています。メールマガジンの詳細は下記BEATウェブサイトをご覧ください。

http://www.beatiii.jp/beating/index.html

—以下、Beatingより転載—
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書籍紹介  ─────────────────────────────
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「幸せな未来は『ゲーム』が創る」
ジェイン・マクゴニガル(著)、妹尾堅一郎 (監修)
藤本徹 (翻訳)、藤井清美 (翻訳)、 武山政直 (解説)
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Beating読者の皆さま、こんにちは。BEAT特任助教の藤本徹です。
今回は、私が共訳者として10月に上梓しました「幸せな未来は『ゲーム』が創る」
を紹介させていただきます。本書は、2011年1月に米国で出版された「Reality is
Broken」の日本語訳で、最近、各分野で注目が集まっている「ゲーミフィケー
ション」(ゲームデザイン手法の社会的応用)の基本文献として広く読まれて
います。

著者のジェイン・マクゴニガルは、カリフォルニア大学バークレー校パフォー
マンススタディーズ専攻で博士号を取得して、現在はシンクタンクのインスティ
テュート・フォー・ザ・フューチャーでゲーム研究開発部門のディレクターを
務める気鋭のゲーム研究者/ゲームデザイナーです。日本語字幕付きのTEDでの
講演映像が公開されており、本書で論じられている内容の一部を著者本人が語っ
ています。

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Jane McGonigal「ゲームで築くより良い世界」(TED)
http://ow.ly/8a1LU
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本書ではまず、「ゲーム」の持つ要素や優れたゲームが引き起こす感情について
検討します。近年のポジティブ心理学や認知科学の研究成果を引用しながら、
ゲームがなぜ人を夢中にし、幸せにするかを考察しています。優れたゲーム
デザイナーたちによって生み出されたゲームによって、巨大なゲーマーコミュ
ニティが形成される状況や、そこで起きている多くの興味深い現象について、
あまりゲームに馴染みのない人にも理解できるように丁寧に解説しています。
そして、現実世界でゲームが繰り広げられる「代替現実ゲーム(ARG)」の事例や
がん治療、貧困根絶など、世界が抱える深刻な問題に取り組むためにデザインされた
社会変革のためのゲームの事例を紹介しています。ゲームデザインの枠組で社会
を捉え直し、「壊れた」現実の問題点を浮き彫りにして、人々が幸福になるよう
に現実をデザインしていくための「現実修復法」が示されています。

ネット上で何万人、何十万人もの人々がつながりを持ち、壮大な規模のことを
達成していたり、家族や友達同士での新たなコミュニケーションツールとなって
いたり、ゲームを通して人々の新たな関係が生み出されていることがさまざまな
事例を通して語られます。「仕事の生産性と幸福感」や社会問題解決のための
コミュニティ形成についても、ゲームデザインの観点で見ると、従来とは異なる
形で捉え直すことができるという著者の「ゲームデザイン思考」が惜しみなく
盛り込まれています。

書名から一見すると、ゲーマーやゲームに興味のある方向けの本だと思われるか
もしれませんが、むしろ社会変革や人々の活動のデザインに興味のある方向けに
書かれている本だと言えると思います。人々の幸せについての研究の話も豊富に
盛り込まれているので、幸福感や楽しさについて考えを深めたい方にとっても
よいきっかけが得られる本だと思います。

翻訳者として苦労のたえないプロジェクトでしたが、お読みいただいた方が
本書から何か示唆を得て、幸福感が高まるものになればと願いつつ翻訳いたしました。
500ページを超えるボリュームの読み応えある本ですので、お正月休みや週末の
おともに、ゆっくりお読みいただければ嬉しいです。
(藤本 徹)