Games for Health 2008 レポート、今回は医療教育に利用されるシミュレーション、仮想世界についてのセッションの模様をご紹介します。
今回のカンファレンスでは、医療教育シミュレーション、仮想世界のシミュレーション用途での利用をテーマとしたセッションが数件行われました。特に仮想世界については、カンファレンス開催前日のプレカンファレンスで一日ワークショップも行われました。
「Virtual World Panel」と題された仮想世界に関するパネルディスカッションでは、4人のスピーカーがそれぞれ話題提供したあと、会場とのパネルディスカッションが行われました。
まず、オレゴン州立大学の研究員でゲーム開発者のTim Holt氏より、仮想世界に関する基礎的な背景知識や、医療教育やヘルスケア分野で仮想世界を利用する際に考慮すべき点などの発表がありました。Holt氏は次のような点を提起しました。
・仮想世界の教育等のための利用に現在関心が高まっているが、導入する前に仮想世界の特徴をまず理解する必要がある。セカンドライフのような仮想世界では、多人数のプレイヤー間の社会的インタラクションがあり、常時利用可能な広大な環境を利用できるが、教育目的としてそれらが関係ないのであれば、仮想世界をわざわざ利用しなくても他の技術を利用した方が良い
・必ずしもフルスケールの3D仮想世界である必要はなく、ウェブベースドの2D仮想世界にもWhyvilleやClub Penguinのような良いものは出ているし、さまざまな環境や開発ツールが出ているので、それらの特徴や、実際の利用環境との適合性を考慮すべき
・医療シミュレーション用途の場合は、複雑なことが表現できる必要があるので、逆に一般的なものでは対応できないことに注意する必要がある。あくまで目的に合ったツールを選ぶべきで、自転車で用を足せるのに2トントラックを利用するようなことではいけない
スタンフォード大学スクール・オブ・メディシンのPatricia Youngblood氏が、Forterra Systems(仮想世界「There」を開発した会社)救急訓練シミュレーションについて紹介しました。このシミュレーションは、化学事故などで多くの急患が出た状況での救急対応を訓練するもので、活動過程の記録やユーザー間のコミュニケーションツールなど、仮想世界内で遠隔でのチーム活動に必要な機能が提供されています。訓練環境の再現に加えて、遠隔での教育が効果的に行えるなどのメリットが挙げられました。通常の訓練機会を利用しにくい人々、たとえば夜勤の多い看護士などにはこのシミュレーションの提供の意味は大きいそうです。
タコマコミュニティカレッジのJohn Miller氏が、セカンドライフ内で開発した看護士教育シミュレーションを紹介しました。医療教育の場で利用されるマネキン型のシミュレーターは、そのコストだけでなくその管理が大変なことが問題になっていて、Miller氏の大学のように小さな大学ではそれらを利用するのは困難なため、セカンドライフを訓練環境として利用できないかを考えたそうです。Miller氏は最初に2万ドルの研究助成を受けてプロジェクトをはじめました。
救急活動には、単にマニュアルを読んだだけでは身につけられないような現場での迅速な判断や適切なチームコミュニケーションが求められるため、このようなバーチャルな環境での訓練が有効でした。そして下記のビデオのようなシミュレーション環境が開発でき、今後さらに多様な訓練シナリオやリソースを充実させていくとのことです。
最後に、子ども向け仮想世界「Whyville」の開発者のDr. James Bowerが、Whyvilleでのこれまでの教育的な取り組みについて紹介しました。Bower氏は、テキサス大学教授で、このWhyvilleの開発会社NumedeonのCEOでもあります。Whyvilleは1999年にサービス開始され、小中学生女子がメインターゲット、登録ユーザー数は350万人、継続利用したユーザーは120万人とのこと。
Whyvilleでは利用する子どもたちのために、これまでさまざまな教育的取り組みを行っています。その一つが、食育をテーマとしたコンテンツの提供です。Whyvilleで生活するアバターが食事をする際に、栄養のないものばかりを食べるとアバターの血色が悪くなったり顔に吹き出物が出たりするようにすることで、正しい食生活を送るための知識や習慣を身につけられるようにしています。
2002年のバレンタインデーにはゲーム内にY-Poxという病気を導入しました。この病気にかかったアバターは、くしゃみでチャットが隠れてしまうなどプレイが不便になる症状にかかり、予防接種の必要性を学べるという仕掛けになっています。このように仮想世界の中に不都合な要素を持ち込むことは必ずしもユーザーの不満を生むわけではなく、ユーザーの活動に多様さを増して、それがひいてはプレイヤーの現実世界での生活にもよい影響となることをBower氏は指摘しました。
医療教育シミュレーションに関するセッションは、このパネルセッションのほかにも行われました。ジョージア大学のDr. Roman Cilirkaは、同大学のシミュレーションを利用した歯科教育の事例を紹介しました。歯科教育のカリキュラムでは、すでに4年間のカリキュラムがいっぱいいっぱいで、新たな手法を取り入れることが難しいという課題があるそうです。
従来のE-learningコースのような知識教育では十分ではなく、基礎知識の教育の後の初期の演習をカバーする方策として、同大学では精度の高いシミュレーション環境の開発を進めてきたそうです。これまではVR技術などの利用してきて、現在はテキサスA&M大学で開発され、先ごろBreakawayがライセンスを受けて販売を開始したシミュレーションプラットフォーム「Pulse!!」上で歯科治療訓練シミュレーションを開発中とのことです。
またカンファレンス会場では、パネルセッションで紹介されたForterra SystemsのOLIVEプラットフォームのデモが行われていました。上記のBreakawayの「Pulse!!」、Virtual Heroesの開発した「HumanSIM」のデモも行われていました。これらは、セカンドライフのような汎用的な3D仮想世界では再現できないような詳細な訓練環境も再現できる機能やリソースが提供されています。
参考:
Games For Health: Why You Should Care About Virtual Worlds(Serious Games Source)
http://www.seriousgamessource.com/item.php?story=18595