シリアスゲームサミットDCダイジェスト

 シリアスゲームサミットGDCの開催まであと2週間を切りました。参加される方向けの予習をかねて、昨年10月に行なわれたシリアスゲームサミットDCから、3つのセッションの模様をダイジェストでご紹介します。
1.ヘルスケアと森林管理−ハーフライフ2:シリアスゲームモディング
ティム・ホルト (オレゴン州立大学リサーチアシスタント)
2.フードフォースによって飢餓と闘う国連
ジャスティン・ロシェ (国連世界食料計画、プログラムマネージャー)
3.ハズマット:ホットゾーン−ファーストパーソン・レスポンダー・ゲーミング
ジェッシー・シェル(カーネギーメロン大学エンターテイメントテクノロジーセンター)他


1.ヘルスケアと森林管理−ハーフライフ2:シリアスゲームモディング
ティム・ホルト (オレゴン州立大学リサーチアシスタント)
Valve社でハーフライフ開発に関わり、現在はオレゴン州立大学に籍を置くティム・ホルト氏は「何百万ドルもかけたようなゲームを開発したいとみんな思うが、何百万ドルもかけたように見えるゲームを作るには何百万ドルもかかる。何か代替案はないものか?」と切り出して、Modプロジェクトが一つの選択肢となるという事例を紹介した。
・市販ゲーム並みのクオリティでシリアスゲームを作るには、ゲームエンジンを利用したモディングが有効である。ハーフライフ2、アンリアル、ファークライ、ネバーウィンターナイツなど、開発キットが提供されたゲームタイトルが出ており、それらを活用することで高品質のシリアスゲームを開発できる。
・ハーフライフ2のエンジンはテクスチャの解像度が高いのが長所であり、病院シミュレーションのようなものを作る際には解像度は重要。さらに、豊富なサウンドデータや3Dモデルが利用可能。
・市販ゲームエンジンでMODを開発する際、作ったMODの商用利用はできず、ゲームをプレイするためにはそのゲームソフトを購入する必要があり、ゲームエンジン間の互換性はない、といった制約はあるが、開発効率は格段に高くなる。
・Pulse!!!は、ハーフライフ2エンジンを利用して開発された病院シミュレーションゲームで、海軍研究所の出資を受けた。スキンやテクスチャ、AIスクリプト、その他コードの修正によって、求めていた動きを再現できた。
・既存の市民の3Dモデルを医者に変えるためのコード修正を最小限にするために、最初から医者のモデルを作るのでなく、市民のモデルに医者らしいスキンをつけて歩き回らせ、少しずつ医者らしい行動をコーディングしていった。森林シミュレーションでは、同じような考え方で草のモデルを樹木に変えた。
・GNNVizは、ハーフライフ2のエンジンを利用して開発されたバーチャル森林シミュレーションで、連邦共同火災科学計画の出資により、オレゴン州立大で開発された。森林研究のためのデータ可視化ツール、コラボレーションツールとして利用されている。開発にあたり、樹木のモデルを拡大せずに、人のモデルを縮小して動きを遅くすることでマップバランスを調整した。
・既存の機能を使えば、開発の手間を大幅に省ける。たとえば、レーダーマップは、森林の統計データを表示するのに使った。シミュレーションのデータもゲーム外から取り込む形にすれば、ゲーム内のコーディングは減らせる。
・モディングを始める前に、ゲームをしっかりプレイして、何ができるかを把握しつつアイデアを練るべき。開発者コミュニティのWikiやメーリングリストなどのリソースも活用すべき。moddb.comには豊富な情報がある。
2.フードフォースによって飢餓と闘う国連
ジャスティン・ロシェ (国連世界食料計画、プログラムマネージャー)
・フードフォースは、1999年にコソボで亡くなったイタリア人活動家、ポーラ・ビオッカ氏によって提案された。
・プロジェクトの予算は、通常のWFPの活動予算からは支出しない方針で開発されたので、開発には時間がかかり、完成まで3年ほどかかった。5000ドルをゲーム開発のためのコンサルティング費をかけ、ゲーム開発の準備を進めた。
・イタリアのゲーム会社、ディペンドに案を持ち込み、マクロメディアディレクターで開発され、最終的な開発コストは475000ドルかかったが、その時点では成功の手ごたえを得ていた。
・フードフォースの対象ユーザーは8歳から13歳で、ゲームはWFPの実際の活動に基づいた6つのミッションから構成されている。
・当初からフリーダウンロードで配布する計画だったが、大容量データをオンラインでダウンロードしてくれるのか自信がなかった。しかし、同じように大容量データをダウンロードしてプレイするアメリカズアーミーの成功を見て問題ないと考えた。
・メディアからの反響は非常に大きく、自前のサーバーでは対応できないためにヤフーにダウンロードサーバーの提供を求めたら快諾してくれた。
・すでに1000万以上のページインプレッションで、210万コピー以上がダウンロードされた。最初の6週で100万ダウンロードを越えた。日本語版もリリースされ、数日で14万ダウンロードを記録した。中国語、スペイン語、ポルトガル語、ヒンディ語バージョンのリリースが予定されている。
・各国のゲーム会社はとても協力的。社会貢献とブランド認知のプラスになると考えられている。
・フードフォースはゲームだけにとどまらず、ウェブサイトには掲示板や各種ガイド、教員向けリソースなどが提供されている。
・子ども達の反応は予想以上で「大きくなったらWFPのような機関で働きたいという子どもたちの声が数多く上がっているし、学校で寄付金集めのような活動をする例も出てきている。」
・今後の活動は、資金確保の状況次第だが、続編やマルチプレイヤーゲームなどが検討されている。CD-ROM配布などでさらに多くの子ども達にプレイしてもらえるような活動が検討されている。
3.ハズマット:ホットゾーン−ファーストパーソン・レスポンダー・ゲーミング
ジェッシー・シェル(カーネギーメロン大学エンターテイメントテクノロジーセンター)他
このセッションは、カーネギーメロン大学エンターテイメントテクノロジーセンターと、ニューヨーク消防署の共同デモセッションで、シリアスゲームの事例として最も注目されているゲームのデモセッションとあって、会場は超満員となった。まずシェル氏による概要説明が行なわれた。
・ハズマットは、消防士が化学テロのような有害な状況下での救助活動を訓練するために開発された。開発期間は3年、アンリアルのエンジンを使ったMOD。
・シナリオは、ニューヨークの地下鉄駅構内で有毒ガスが撒かれた状況をシミュレートしている。
・通常の講義ベースの指導では、事態の深刻さがイメージできないが、このシミュレーションを使った訓練を行ない、事後分析のミーティングを行なうことで、状況をよりリアルに把握できるようになった。
・当初はピッツバーグ市の消防署と協力して開発していたが、途中でテロ対策へのニーズの強いニューヨーク市消防署と協力することになった。
その後、ニューヨーク市消防署の訓練プログラムチーフ、ニック・サンタンジェロ氏によって訓練の内容が紹介された。
・ニューヨーク市は11000人の消防士が働いていて、多様な建物がある街の特性から、さまざまな防災ニーズがあるものの、実際には熟練するほどの訓練機会を提供できないのが実情。9/11で多くの経験豊かな消防士を失い、訓練へのニーズはさらに高まった。そのため、新たな訓練方法を模索していた。
訓練インストラクターのトニー・ムッソフィティ氏と消防士たちによって、会場内でハズマットを使った訓練の実演が行なわれた。
・消防士たちは火の中に飛び込んだり、救急活動を行なったりすることには慣れているが、バイオテロのような新たなタイプの災害には慣れていないため、ハズマットはそうした場面に慣れるための訓練のために利用される。
・ハズマット内での訓練の後、クルーたちによって、事後ブリーフィングが行なわれ、状況確認や、判断の評価などが行なわれる。
・シミュレーションは詳細設定を変更でき、用途に合わせて条件を変えたり、難易度を調整したりできる
・ハズマットはリアリスティックに状況を再現していて、教室では提供できない環境を提供できる。訓練を行なってみて、消防士たちはみんな学習経験の違いを実感している。
・ハズマットは今後拡張していって、さまざまな災害ニーズに対応したシナリオを制作し、全米の消防士がこのシミュレーションを利用して訓練できるように展開していく計画である

なお、これらのセッションと他のセッションの詳しいレポートは、GamasutraのシリアスゲームサミットDC特集ページ(英語)に掲載されています。
http://www.gamasutra.com/sgsdc2005/

2 thoughts on “シリアスゲームサミットDCダイジェスト

  1. Another Way

    教育工学とシリアスゲーム

     東大の中原さんがフードフォースとシリアスゲームについて書いていて、教育工学とシリアスゲームについてを掘り下げて考えるのにちょうどよいなと思ったので、呼応したエントリを書きます。  フードフォースについては、シリアスゲームジャパンの方にいくつか関連エン…

  2. rhoshino

    http://www.pqhp.com/cmp/gdctv/
    CMPのストリーミングサービスGDCTVにシリアスゲームサミットDCの講演も追加されています。フードフォース、Hazmat、BioWareのコミュニティ戦略など7セッションが登録するだけで無料で見られます。

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