シリアスゲームサミットDC2006で、ゲーム開発者のトム・スローパー氏が講演を行いました。Serious Game Sourceの記事を紹介します。
トム・スローパー氏の連載(IGDAj)
>>>この記事のまとめ
「シリアスゲーム・プロジェクトのための正しいスタジオ選びと仕事の進め方」
– Serious Games Summit DC 2006、トム・スローパー氏の講演
– Jill Duffy (ジル・ダフィー)
ゲーム開発について、トム・スローパーは「知って」いる。彼は1980年以前からコンピューターゲーム産業で働いていた。そして現在もこの業界にいるということが彼のビジネスセンスを証明している。彼の会社であるスペラローマ・プロダクションでは、スローパーががどのようなタイプのプロジェクトで働くかについて柔軟に決めることができ、彼はコンサルタントの仕事もしている。彼は、最近アリントンで10月30-31に開催されたSerious Games Summit D.C.でゲーム開発者と働く際、彼らに何を期待すればいいのか、どうすれば開発が成功するかについて語った。
「シリアスゲーム・プロジェクトのための正しいスタジオ選びと仕事の進め方」と題したスローパーの講演には、ベテランのゲーム開発者よりもシリアスゲームのアイディアの発案家が多く参加した。多くの出席者にはすでにゲームのアイディアがあり、多くはどのように配布するべきかを知っていたし、すでに資金を得ている人々もいた。しかし過去にゲーム開発者と働いたことがある人々は少なく、自分たちのプロジェクトをスタジオに任せたはどういうことになるのかを彼らは知りたがっていた。
○ゲームからの見方
ゲーム産業にいる人たちは自分たちの仕事にどの程度かかるのかが分からないとよくいわれている。ゲーム産業でビジネスが行われるやり方は、たとえば多くのシリアスゲームメーカーに資金を提供している連邦政府のやり方とは大きく違う。また、シリアスゲームコミュニティに含まれるほかの部門 – 教育・医療・調査・緊急時対応・等 – とは大変な違いがある。稟議書による官僚制度や文書化された方針を信頼する人、慣例次第の職場で働く人は、プロののゲーム開発者に初めて会うときは相当幻滅するかもしない。
強い「連絡網」を築くこと、これが真っ先にやるべきことだ、とスローパーは語る。スローパーはゲーム開発者と働く人なら誰でも、一緒に働くスタジオを探している人でも、開発者の仕事環境をたずねてみることを勧めている。
「小規模の開発者はオフィスで働くよりも家ではたらくことが多いのですが、私はどのみち訪ねてみる見ることを勧めています。彼らがおそらくどのように働くかについて本当に多くのことを知ることができます」とスローパーはいう。しかし、開発者の働き方を評価するとき、スローパーは、最も経験ある開発者が必ずし最もプロフェッショナルな開発者のようには見えないと指摘する。こんがらがったコード、おもちゃ、フィギュア、明るい混乱状態があるだろうことを覚悟しほしい、と彼は語る。「本物のゲーム開発者というよりは、大人の学校のようにみえるかもしれません。」
また、スローパーは、最低週に一度か二週間に一度は電話を使って連絡を取ることを勧めている。ただし日常の連絡なら電子メールで、頻繁なやり時が必要ならIMで十分だとも語った。
○協力して仕事をするために
「次に、あなたは一仕事をしなければいけません」とスローパーはシリアスゲームを開発するゲーム開発者を雇いたいを思っている人達に語る。「あなたは、自分のほしいものをきわめて詳細に書いた資料が必要です。書面の形で、です。」スローパーは、その文書が「あなたの期待を細部まで明らかにすること」が必要で、何がいつまでにどのような形式で必要なのかを正確に書かれていなければいけないと強調する。「すべてを文書化してください」と彼は語る。
「あなたがどのように中途目標(milestones)を書くかはとても重要です。2つの方法があります。典型的な中途目標は契約書に書かれています。」それは納品と支払いという形で記され、「全て最初からはっきりと書き出してあります」とスローパーはいう。このようなメソッドを使う長所は、明確で先が読めるという点にある。短所は柔軟性がなく、開発者に自分の想像性が窒息してしまうのではないかという恐れさせるかもしれない。
目標設定に関するもう一つのメソッドは、手始めに最初の一つか二つの中途目標を設定して、後は以前の目標を達成した後で次の目標を立てる、という方法だ。スローパーによれば、この方法はゲームの企画者にとっても開発者にとってもずっと柔軟で、「製品により面白い要素を与えるかもしれない」。しかしその一方で、この方法を使うとプロジェクトの予測を立てるのは難しくなる。
「プロジェクトを通じてあなたが経験する初期段階が最も重要なのです」とスローパーは、シリアスゲームのアイディアの発案家に対し、開発者からどんな経過報告書をもらいたいのかを自分自身に向かってを問いかけなければいけない、と語った。「どのくらい頻繁に彼らから話をききたいのですか?最新のバージョンはどの位の間隔で届けてほしいと思いますか?開発者はどのくらい頻繁に支払われる必要があるのですか?開発者とどのくらいの頻度でミーティングをしたいと思いますか?」
○開発者の管理人
「私はあなたがどうやってゲーム開発者の探せばいいのかについてのみを話そうとしているではなく、どうすればゲームプロデューサーになれるのかについても話そうと思います。」スローパーは彼のアドバイスについて語った。便利でよく利用されるサイトとしてGamasutra.com, Wikipedia.org,IGN.com,Neoseeker.comを例に出しながら、開発者を探すのはまだ簡単なのだ、と彼は指摘した。
シリアスゲームの人間とビデオゲーム開発者の契約関係の管理はある程度お金がかかる。一般的に開発者は契約の際に前金をもらうことを期待する。彼らは必ずしも自前で使える資金をもっていない。
「開発者は開発のための資金を必要します。だから契約に対してお金を払ってください。また、お金を払えばあなたが本気であるという印にもなります。」スローパーは言う。「彼らには次の小切手を受け取るまでの間の資金が必要です。もし最初の中途目標が資料の作成するための二ヶ月間だった場合、それだけの期間、小切手と小切手の間に使うお金を十分に持っている必要があります。」
また開発者ならば自分たちがどの程度の頻度で、どの位の資金を必要としているのかを前もって知っている必要がある。「本当にいい開発者は彼らのバーンレート(※起業した際に利益が出る以前の段階で資金を消費する率)を教えてくれます。」「進歩を確認してください。ただ、微細管理にならないようにしてください。彼らを信頼できる専門家として信じることはとても大事なことです。彼らが作っているものをどうやって作っているか、資金の出入りをすべて把握する必要はありません」
○仕様の変更
開発者が中途目標を予定に間に合わせられなくなった時は、その時点ですぐ分かることだ。しかし期待通りのものが出来上がらないのだ、ということをいつ判断するのかは難しい問題だ。何を期待するのかは最初から100%明確にしておくべきだ、とスローパーはゲーム業界に参入する人々に指摘する。なにを期待するのかを完全に明確にするために文書は長文である必要があるかもしれない。
仕様変更という言葉は、ビデオゲーム開発の仕事に携わる人には聞き覚えのある言葉で、これは双方の関係者が開発中のゲームに何かを付け加えようとすることで起こる。何が起こるのかというと、よくあるのは開発前にすべて計画していたことが突然ひっくり返ってしまうのだ。経営面、財務面、そして時間管理の面の理由からスローパーは開発が始まった後はゲームに新しく何かを付け加えようとする要求はすべて退けることを強く勧めている。
「仕様が決まったら、新しい機能やアイディアを頼まないでください。また、仕様が決まったあとは、開発者が新しい機能やアイディアの提案は却下してください。」とスローパーはアドバイスする。ただし「資金が問題にならず期限がない場合、すべてが試験的な実験である場合」は例外だ、と彼はいう。
使用の変更を許可した場合は、新しい仕様をすべての側面でチェックし管理できるように、正式な変更要求の過程を踏むことを勧めている。「『変更要求の手続き』すら最初の契約で確定しておくべきです。」
「どのようなことが起こりえるかというと、あなたは新しいアイディアがわいてきて、それが製品にとって重大な変更だけどコストは変わらないということが起こることもあるし、、、開発者と何か開発への根本的な考え方の食い違いが起こることもありえます。双方の関係者が物事を同じように見ることはあまりないし、また彼らの考え方をあなたが改めるということも稀にしか起こりません。少なくとも相手意見について考えてみることを約束するか、あなたの考えをもともと相手の意見だったかのように聞こえるような形で提案してみてください」とスローパーはいう。
○正当な支払い
「期限には支払いを済ませてください。おそらく、あなたと働くためのモチベーションはお金だけではないでしょう。しかし開発者はお金をもらわなければいけません。誰だってそうです。」
とスローパーは開発者に関していう。スローパーは、ゲーム開発の事業にかかわる人たちが、互いに利益があるはずの関係を、正当な支払いをしないことによって損なってはいけないと指摘する。
例えものごとが上手くいっているように見えても、どこで上手くいかなくなるかもわからない。スローパーは、ニンテンドーDSのゲーム、(Top Gun, Mastiff)というゲームをプロデュースし、声の吹き込みも担当したことがあった。台詞を作成したポーランドの開発者との間に問題が起こった。ポーランドの開発者のは英語を母国語としなかったことが原因だった。スローパーはポーランドの開発者が作成した台詞用のテキストを編集しなおして、彼らに送り返して、それをコードに挿入しなおすように指示した。しかし、変更後のゲームがスローパーに見せられたとき、彼はすべての変更が最新の製品に反映されていないことに気づいた。
ポーランドの開発者は台詞用のテキストをコードと分けて別々に保管しなかったので、彼らは台詞をコードに直接コピー&ペーストすることになり、スローパーの変更をすべて反映させることができなかったのだ、と彼は語った。「これは『ゲームデザイン入門』レベルの問題です」とスローパーはアマチュアのようなミスについて語った。「キミタチの基本はすべてワレワレにある※有名なゲームの誤訳」とスローパーは茶化した。
ゲームプロデューサーの視点から、また経営上の視点からも、シリアスゲームの作り手に、参考図書として以下のような本のリストを上げている。
– Chandler, Heather M. Game Production Handbook.: Charles River Media, 2006.
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– Rabin, Steve. Introduction to Game Development:: Charles River Media, 2005.
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– Brooks, Frederick P. The Mythical Man-Month: Essays on Software Engineering: Addison-Wesley, 1975.
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– Peter, Dr. Laurence J. The Peter Principle: Why Things Always Go Wrong: Pan Books, 1970.
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– Parkinson, Cyril Northcote. Parkinson’s Law: Buccaneer Books, 1993.
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まとめ
・ゲーム産業の人の仕事の仕方は、シリアスゲームに関心のある教育、医療、政府関係者とかなり違うので、注意すること。
・彼らの仕事の仕方を理解するために、ぜひ開発者の仕事場を訪問するべき。
・ゲーム開発者にゲームのアイデアを伝える時には、自分の作りたいものをできるだけ詳細に文書化すること。どれくらいのレベルのものを、どのような形式で、いつまでに必要なのかを正確に文書にして伝えることが必要。
・中途目標設定の仕方は2つある。ひとつは最初からすべてをの中途目標を詳細に書き出す方法。柔軟性はないが目標が明確だ。もうひとつの方法は進行と共に次の中途目標を設定していく方法。プロジェクトの予想が難しいが、柔軟性に富む。
・ゲーム開発には資金が必要なので、開発者とよい関係を保って開発を進めるには、開発後にまとめて報酬を払うのでなく、十分な着手金を払う形で契約すべき。
・開発者側は、必要な開発資金がどれくらいで、その開発のための資金繰りを把握しておく必要がある。その上で適切な契約を結べるように発注者と交渉することだ。
・発注者側は、開発の進捗管理は大事だが、あまり細かいことまで口を出すべきではない。開発の進め方についてはプロを信頼することだ。
・開発者にに何を期待するのかを文書で明確にした後は、開発が始まったあとで仕様を変更しないことが重要。変更すれば事前の計画が意味をなさなくなる。
・互いにいい関係であり続けるために、開発者への支払いは期限内にすませること。