Games for Health 2008 レポート:まとめ

 ここまで5回にわたって今回のGames ffor Health カンファレンスの模様をレポートしてきました。レポート最終回として、今回のカンファレンスのポイントをまとめたいと思います。
 今回のカンファレンスでは、前回までと比較して次のような点が特徴的でした。
・規模の拡大
・大手保険会社の参入と一般層への普及
・個別テーマの具体化
・成功事例の共有と発展
・従来の取り組みとの合流


・規模の拡大
 今回は参加者数で300名超、これは4年前のシリアスゲームサミットの参加者数を上回る規模です。シリアスゲームコミュニティの拡大とともに、シリアスゲームの個別分野のコミュニティが成長してきていることを示しています。紹介された開発事例のプロジェクトの予算規模はさまざまで、日本円で数百万円程度のものから、十億円以上の規模の開発プロジェクトまであります。Pulse!!やRe-Missionなどのように、このカンファレンスの常連ともいえるプロジェクトは、着々と発展している様子がうかがえました。
・大手保険会社の参入と一般層への普及
 今回はキーノートに営利、非営利の大手健康保険プロバイダー、Humana、Cigna,、Inland Empire Health Plan、Kaiser Permanenteの4社がパネリストして参加し、それぞれのこの分野への期待を語り、現在の取り組みについて紹介しました。たとえばHumanaは、Humana Games for Healthというウェブサイトを立ち上げ、エクサゲームをはじめとするヘルスケアゲームの開発支援、利用推進を行っています。Kaiser Permanenteは、Amazing Food Detectiveを開発しています。ヘルスケア分野で全米最大の非営利財団のロバート・ウッド・ジョンソン財団が800万ドル以上の予算でこの分野への継続的支援を決めたことで、これらの大手ヘルスケアプロバイダーも本格的に動き出しました。その動きが波及して、Games for Healthに取り組む病院や研究機関などの活動にかかわる弁護士や広告代理店のマネージャなどもこのカンファレンスに参加していました。このことは、より広い層にこの分野の影響が広がっていることを示していると言えます。
・個別テーマの具体化
 今回は、エクサゲーム、ゲームの効能、リハビリゲーム、ゲームのアクセシビリティ、医療シミュレーションと仮想世界、といったGames for Healthの個々の領域の取り組みが蓄積されてきたことが顕著になりました。AIDS対策のゲーム、食育ゲーム、救急訓練シミュレーションなど、さらに細かい個別テーマでも複数の事例が出てきており、それぞれに厚みを増してきています。
・成功事例の共有と発展
 最初の開催から4年ほどが経過し、以前の発表では構想段階やパイロット段階だったプロジェクトが開発を終えて、ポストモーテム(事後評価)セッションも増えてきました。Re-MissionやAmaging Food Detective、Pulse!!などのプロジェクトは、これまでの活動から得た知見を参加者と共有する動きとなり、このコミュニティの知的基盤を高めることに貢献しています。
 開発途中のプロジェクトのセッションも数多く行われ、それらのセッションでは、経験のある聴衆からのアドバイスが行われたり、有用な知識提供が行われたり、有意義な交流が行われていました。ラウンドテーブルセッションでは、今まではまだこれからプロジェクトを始めるという参加者が多かったのが、今回はすでにさまざまなプロジェクトを経験してその知見を持ち寄って研究課題を議論する様子が目立ち、このコミュニティの成長がうかがえました。
・従来の取り組みとの合流
 医療教育分野は、軍事分野と並んで、以前からVR技術の利用やシミュレーション開発が行われてきた分野です。今回のカンファレンスでは、それらの従来からの流れとデジタルゲーム技術の利用から入ったこの分野の流れが合流して、それぞれのノウハウや知識が共有されてきていることを示していました。すでにデジタルゲーム技術と従来のシミュレーション技術の境界はなくなりつつあり、むしろデジタルゲーム技術の利用が進むことで従来の医療教育シミュレーションの分野が活性化されようとしているようです。
 別の側面では、デモブースで遊具メーカーが自社開発した体育施設向け遊具やスポーツトレーニングツールを出展していたりして、このテーマに近いところで活動していた企業や組織の取り組みがあらたに注目される機会としてこのカンファレンスが機能していると言えます。
 以上のようなところが、今回のカンファレンスの特徴だったかなと思います。あともう一つ付け加えるとすると、機会があるごと日本の事情を行ってきたことで、日本での取り組みへの認知も少しずつ進んできたかなというところです。Serious Games Sourceでも取り上げられて、ほかの主要セッション並みにしっかり記事を書いていただいてます。
 GDCの一つのラインナップとして定着したSerious Games Summitとともに、このGames for Healthカンファレンスも、継続的に開催されることが決まっています。次回以降も現在進行しているプロジェクトが成果が紹介され、商業化された開発ツールを利用した新たなプロジェクトが登場することが期待され、とても楽しみなところです。
 ただ、あいかわらず日本からの参加者がいないのが残念なところです。まだニッチなうちがニュースバリューとしても高いですし、普及が進む前の方が得られる情報や人的ネットワークも価値が高いことが多いと思います。今後日本でもこの分野への関心が高まり、日本からの参加者が増えることを期待しています。